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1話
外がうっすらと明るくなった午前5時40分頃。苑村大羅 は、疲れた様子で家路を急いでいた。手には、売れ残りの弁当が入ったビニール袋が握られている。
急いで帰らなければと思う。しかし、思ったように足が動いてくれない。
ようやく帰りついたボロいアパートの一室。自分達の我が家。隣人を起こさないように。極力、音をたてないようにしてドアを開ける。
すると、雪のように真っ白い手が伸びてきたと思ったら、その手で頬を打たれた。
「遅い。今、何時だと思ってるの」
「…………ごめん、大雅」
「言い訳とか、どうでもいい」
項垂れる大羅の手から、大雅は奪うようにしてビニール袋を取る。そして中身を確認すると、チッと舌打ちをして勢いよくドアを閉めた。
「っ、たい、」
『約束破った罰。今日1日、家には絶対に入れないから』
大雅がそう言うのなら、今日は絶対にこのドアが開かれることはない。
それが分かっている大羅は、隣人が怒って出てくる前に疲れた身体に鞭打って走った。
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