8 / 9
第8話
あの夜と同じ夜がまたやってくる。
人々は仮面をつけウィッグを被り
お気に入りのキャラクターのコスチュームに身を包んで街を練り歩き、コンテストやパーティーに参加する。
「Trick or Treat」
そして僕は……その夜だけ人間になった。
政府主催のハロウィンパーティーに出席するお兄さんに会う為に。
そこで人間の姿の僕を見て、僕と過ごして触れ合って、
もしも、お兄さんが……昔の僕らを、愛し合っていた記憶を思い出してくれたのなら
僕の勝ち。
今度こそ僕らは結ばれるだろう。
だけどもしもこの賭けに負けた時には僕は……。
*
「俺と来て欲しい」
男はそう言った。
「オレは誰のものならない」
オレはそう答えた。
どうか声の震えに心の迷いに気付かれませんように。
と、願いながら。
もしもオレにもう一度愛される勇気が、愛する覚悟が、あったのなら……
笑うと幼く見えた男のことを想うと今でも胸が騒めく。
たった一度会っただけなのに。
夕暮れに名前を呼ぶ。
「トール?」
あの温もりがないと眠れなくなった頃黒猫は姿を消した。
冷たい風が金木犀の匂いを運んでもうすぐ冬が来る。
「トール?」
もうどこにいないと分かっていて名前を呼んでしまうのは
遠い昔に失くした悲しい恋に似ていた。
「トール……トーノ……ト……オル
ーーお前に会いたいよ。
ーーもう一度
ともだちにシェアしよう!