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chapter.1-29
プリッツを貪る萱島の手が止まった。
ロナルド・テイラー。神崎の父親…延いては自分達に身体をくれたドナーである、バート・ディーフェンベーカーを殺した男だ。
あの男が戸和の元所属と繋がっており、そして元所属は中東に居た。それはつまり。
「えっと…中東に本社のある黄昏なんちゃらも、テイラーと繋がってたんじゃって話…?」
「可能性はある、医療情報なんて関係者しか知り得ないから提供元は限られてる…テイラーがトワイライト・ポータルに話を持ち掛け、本部襲撃に何らかの協力を仰いでたのかもな」
「…それが何でまた今更来てんの?」
「知らん、分からない点が多過ぎる」
しかしテイラーが死んだのも既に5、6年前の話だ。
おまけに神崎単体でなく、移植を受けた萱島らにも用があるのならば。
「繋がりがあったとして、テイラーとはまた別な目的で動いてるっていう…」
整理しつつ口に出していた中途、携帯の着信音に動きを止めた。
萱島は発信元を確認し、またもや裏返った声を捻り出した。
「ほ…本郷さん…!!」
「なに?やっとか…話してくれ、一度何処かで会って情報共有したい」
「本郷さん!!」
受話ボタンを押すや縋り付く。
2、3文句を言おうと息を吸い込むも、すべては先手を切った本郷の台詞へ封じられた。
「…え?」
訝し気に戸和が助手席を見やる。
放心する萱島の携帯から、内容までは聞き取れない音声が淡々と漏れていた。
「て、転職する……?」
一体この状況で、何を言っている。
戸和までうっかりアクセルを踏み抜きかけ、寸で我に返った。
凡そ訳の分からぬ上司の電話に混乱する。
車は沈黙を携えたまま、行方も知らぬ明日へ向かい走り続けていた。
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