59 / 248
extra.1-1 閑話
R.I.C本部を去った後、萱島と戸和は社長の自宅を捜索し、PCの通信履歴を見漁り、時には膨大な知人を当たって行動を追い掛け。
必死な思いとは裏腹に収穫もないまま、結果日付を跨ぐ頃には困憊してホテルへ撤退していた。
「もう寝ろよ」
テーブルで丸まる背へ声を掛ける。
現状だけでも整理したいのか、相手は生返事だけで動こうとしない。
「沙南」
「うん…電気消していいよ」
明らかに憔悴した声を流し、薄い肩を掴む。
せっかく湯で温めたものが冷えている。
放っておけば夜半にはくしゃみをし、空が白む頃には鼻声になる。
身体の事情など知っている。恐らく、疎かにしている当人よりも。
「今無理しても仕方ないだろ、言う事聞かないと叱るぞ」
そろそろ怒気を孕む。
戸和の声に肩が跳ね、恐々と怯えた目が振り向いていた。
「…も、もう寝ますよ」
「お前を見てると心配になる、こんな小さい身体で」
そんな風に思っていたのか常日頃、そりゃあ君に比べれば軟弱なのは多少自覚しているが。
其処から派生した諸々、文句を発する前に抱き込まれ、結局反論ごと畳まれる。
「妙な正義感だけで走るから、さっきみたいに絡まれるんだ」
ぐっと腰を抱く指が食い込み、思わず首を竦めた。
矢張り未だジルの件を根に持っていたらしいが、正直萱島からすれば日常茶飯であった。
他人と目が合えば不用意に人間を見るなだの、話しかけられればもう家から出るなだの。
一体この青年の何が傾いてしまったのか、関係が行き着いて以降も縛りは強まるばかりだ。
ともだちにシェアしよう!