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extra.1-1 閑話

R.I.C本部を去った後、萱島と戸和は社長の自宅を捜索し、PCの通信履歴を見漁り、時には膨大な知人を当たって行動を追い掛け。 必死な思いとは裏腹に収穫もないまま、結果日付を跨ぐ頃には困憊してホテルへ撤退していた。 「もう寝ろよ」 テーブルで丸まる背へ声を掛ける。 現状だけでも整理したいのか、相手は生返事だけで動こうとしない。 「沙南」 「うん…電気消していいよ」 明らかに憔悴した声を流し、薄い肩を掴む。 せっかく湯で温めたものが冷えている。 放っておけば夜半にはくしゃみをし、空が白む頃には鼻声になる。 身体の事情など知っている。恐らく、疎かにしている当人よりも。 「今無理しても仕方ないだろ、言う事聞かないと叱るぞ」 そろそろ怒気を孕む。 戸和の声に肩が跳ね、恐々と怯えた目が振り向いていた。 「…も、もう寝ますよ」 「お前を見てると心配になる、こんな小さい身体で」 そんな風に思っていたのか常日頃、そりゃあ君に比べれば軟弱なのは多少自覚しているが。 其処から派生した諸々、文句を発する前に抱き込まれ、結局反論ごと畳まれる。 「妙な正義感だけで走るから、さっきみたいに絡まれるんだ」 ぐっと腰を抱く指が食い込み、思わず首を竦めた。 矢張り未だジルの件を根に持っていたらしいが、正直萱島からすれば日常茶飯であった。 他人と目が合えば不用意に人間を見るなだの、話しかけられればもう家から出るなだの。 一体この青年の何が傾いてしまったのか、関係が行き着いて以降も縛りは強まるばかりだ。

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