60 / 248

extra.1-2

「俺が居ないと何も出来ない癖に」 鋭い目が覗き込み、萱島が唇を噛む。 そのままじっと涙を耐えていたら、俄かに唇を押し当てられた。 「しかもまたそうやって直ぐ泣く」 「…じゃあ意地悪言わないで」 「なら大人しく寝れば良いだろ、何時までも他所の男の為に起きてるな」 とんでもない言い方をする。 虚を突かれて目を瞬く間に、ひょいと簡単に掬い取られた。萱島はもう抵抗する手段も無く、真新しいベッドへ担ぎ込まれてしまった。 「サイドテーブルは点けてるから、部屋の照明は落としていいな?」 「え?あ、はい大丈夫…」 慣れない手触りのシーツに包まり、困惑する間に背景が変わる。 薄暗がりでじっと展開を伺っていると、隣に寝転んだ相手はもう眠る体勢ではないか。 「い、和泉さん」 「何だよ」 「……しないの?」 消え入りそうな声に戸和の意識が跳ね上がる。 視線をやれば、中途半端に身を起こした萱島が真っ赤な面で見ていた。 「…人がせっかく寝かせてやろうかと」 「い、いたぁ…押さえつけないでよ!」 「昼間は社長、社長うるさかった癖に何だお前は」 「噛まないで!ごめんなさい」 マーキングの痛みに悲鳴を上げようが、相手が追撃を緩める気配はない。 噛みあっているのかいないのか。 双方ともいまいち分からぬまま、それでも気付けば互いを求めて手を伸ばすのだから。 (明日はもう少し笑ってくれるといいな) (明日はもう少し優しくしてやろう) そんな胸の内を隠したまま、じっと探る様に見詰める。 すべてを理解する事が、最上の関係だとは思わない。 あの日揃いの指輪を買った時から、きっと開くたびに新しいを生む、底のない宝石箱を貰っている。 それを毎日開く際限ない楽しみ、変わる明日の色。 2人で生きるという答えは、多分一生でも拾えないほどの幸せを生んでいる。

ともだちにシェアしよう!