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chapter.3-1 Survival lottery

20世紀末、中東には地獄が訪れていた。 施しようのない熱病が蔓延し、乾いた砂漠の地で凄まじい猛威と化し。 罹患した者は俗世から追放され、病床で最後の審判を待つ。 “都市(モスル)熱”。 発祥地に因んだその名は世界中の紙面を騒がせ、終末時計を進め、あわや中東の終焉かと謳われた。 WHOすら匙を投げかけた。その未曽有の苦楚にも、やがては果てが迎えに来たのだ。 『集会場に行けばワクチン接種が受けられる』 その僥倖へ人々は涙を湛え、列をなして家族の治療へ向かった。 やがて不治の病とされた伝染病は回復し、中東を覆う鬱屈した空気は消し飛んだのだ。 「…アッラーの所業、とでも思ったでしょうよ。けど現実は、一人の天才医師が抗ウイルス薬を開発したお陰」 ぽつりぽつり。静かに零れる女の声を追う。 寝屋川の隣には、檻越しに膝を抱えるカレンが蹲っている。 「それが貴方たちの雇用主の父、バート・ディーフェンベーカー。後に彼の名がニュースで伝聞されれば、アメリカ人にも関わらず預言者でないかと担ぎ上げられたわ。凄まじい熱量で、一種の宗教みたく発展したのよ」 何も話さない、と告げたカレンは再び寝屋川が現れるや、一転してある交換条件を持ち出した。 知っている件を話す。 けれど此方が知りたい事も、一つ話して貰う。 その内容も不明瞭な交渉を受け入れ、寝屋川はこうして彼女の語りを聞いている。 「救いの無い中東で、バート医師は実益を齎した神様だった。特に過激派の若者は挙って支持したわ。彼らは神力を賜った”選ばれし者”として、新国家樹立を狙う過激派組織”ムスタファ革命軍”を名乗ったの」 新たな救済が新たな崇拝を生み、最後には新たな武装勢力を作り出した。 哀しい歴史だ。 バート医師が救った命は、別な命を殺すため動き出したのだ。

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