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chapter.4-1 Gods' wrath

窓ガラスを雨粒が叩く。 その一矢を皮切りに、容赦なく注ぐ大群がガラスの上で爆ぜる。 集中豪雨。この時期には異端な天候に遭い、御坂は崩れる外の景色を追う。 妙な不快感だ、いつかまるでシスティーナ礼拝堂で見た、最後の審判のような。 「サー、失礼します」 ドアの開閉音で意識が逸れる。 現れたサイファは予算資料を無造作に投げ、顎で廊下の方角を示していた。 「馬鹿が来ています。恐れ入りますが30分ご歓談頂けますか」 「ご歓談?それは誤用か?」 “馬鹿”、というのも最早部下にとってUNSCの隠語になりつつあった。 御坂が帰るなり連中はアポなしでやって来ては、どうせ解体だの運営譲渡だのを持ち掛けるのだ。 「…雨が気になりますか」 分厚い窓を隔てようが、やけにざあざあと五月蠅い。 先まで外を見ていた上司へ問えば、寸分待たず返答が来る。 「ああ、私は臆病だからな」 サイファが虚を突かれた顔で止まる。 時折混ざる不可思議な本音へ、寧ろ煙に巻かれた心地になる。 そんな固まる部下の隣を過ぎ、御坂は早々と自室を後にした。 この繁忙で割いてやる時間など無かったが、無視をすれば連中はシロアリのように家を巣食うから。 (噛み付いてみろ) 張り付く害虫へ、微塵もくれてやるものなどない。 創設当時より、UNSDHは利権欲しさの容喙へ苛まれている。 恐らく連中が狙うは軍への権力。 いつ三次大戦が起こるか分からぬ緊張で、誰もが安易に求めるのは武力であり。 「――やあ、待ち草臥れたぞ本部長」 会議室のドアを開ければ、視界へ想定通りの不愉快な面が飛び込んだ。 「…軍事参謀委員会ですか」 「君に顔を覚えられるなんて光栄だ。最も、我々の方が立場は上だが」 矢張り、態々敵の城へ来た用件は強請らしい。 何が可笑しいのか、隣の男までにこにこと満面の笑みを携えて。

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