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chapter.4-33

つまり何だ。 寝屋川が捜し回る部下の遺体は、TPが顛末を知っている。 国連は寝屋川を脅威とみなし、軍事関係者を巻き込んだ報復を恐れている。 そして寝屋川はいつ事切れるかも分からぬ身で、自己の危険など顧みない。 「――貴方の会社に隠居していましたが、彼は海軍十字章を…否、本当は最高位の名誉勲章を貰う予定だった比類なき英雄です。おまけに最近までPMCと絡んでいた始末」 東西冷戦終結以降、急拡大するPMC(民間軍事会社)には多数の元特殊部隊員が居る。 戦力としては申し分なく、元より国に縛られない彼らが第三勢力となっては不味い。 「国連の試算では、寝屋川庵の潜在コミュニティは一国家に相当します。一国家です、ご子息」 副官は化け物でも形容するように吐き捨てたが。 (そんな事は知っている) 2004年春、JTFよりMEFへファルージャ攻撃命令が下り、寝屋川は激戦区へ投入された。 それから会社に引き入れようが、結局彼は戦場から戻ってこなかった。 今日も同様。 肌をじりじり焼く熱さだとか、IEDがそこら中に隠された道だとか、乾いた風だとか。 そういうもので、彼の世界は出来ている。 寝屋川庵は、いつも砂嵐の中に居る。 机上に幾つも並べてあった写真立てを片付け、埃の舞う自室へ咳き込み。 物の無くなった空間を見渡し、当人はじっと長針の音へ聞き入る。 やがて背後から足音が被さり、扉が開く。 珍しくノックも無く入室したウッドは、殺風景な部屋に勘付き動きを止めていた。 「あ…」 「どうしたウッド」 間もなく朝を終えるRICの地下執務室。 鳩が豆鉄砲を食ったような顔を見て、上司は軽く吹き出していた。 「いえ、その…また遠出ですか?」 「ああ、付いて来るか」 作業で背を向けながらも、続いた言葉に答え淀む。 上司は、体調が良くない筈だ。 ウッドが彼の注射痕を訝しみ、粗探しをして見つけたのは、夢へ誘うドラッグでなく…要は生き永らえる為に必要な免疫抑制剤だったのだから。 「…肺の様子は如何ですか」 「何だ、心配するな」 砂漠地帯の環境など、呼吸器に良い筈がない。 当然のこととして、このまま追従して良いものかと逡巡する。 しかしどの道もう苦しむしか無いであろうこの先。終わらない悪夢。 ならばそうだ、今の下らない葛藤も、負のアソシエーション・ゲームも全部引っ包めて 「…約束したろ、これで最後だ!」 M4A1を肩に、清爽と笑う。 まるで此方を激励するかの様な表情を目に、ウッドは声もなく、ただ厳かに頭を振るのみだった。 next >> chapter.5

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