126 / 248

chapter.4-32

「貴方様の会社に、国連がブラックリスト指定した社員が居ますね」 瞳孔の開いた目が猛禽を思わせる。 サイファの圧を受けながら、神崎はそっちに来たかと明後日を向いた。 「アイツは軽犯罪しかしとらんぞ」 「する可能性がある、という事です。彼は未だ聖地巡礼を続けるつもりですか」 「聖地巡礼ね…贖罪くらいほっといてやれよ」 「ご子息、サーが申し上げた通りこれは忠告です」 今にも食い掛らんばかりの威嚇は、寧ろこっちが本題だったと言わんばかりだ。 諸々医療器具の片付けに入る上司を後目に、サイファはトチ狂った色を覗かせて腰の拳銃を叩いていた。 「彼が火種を燃やすならば、我々は脳天撃ち抜かねばなりません」 「…まるでそうなる様な言い草だな」 「あの子の肺を移植したのが約16年前。脳死肺移植の場合、10年で生存率は50%台に下がる。以降も感染症の脅威と戦いながら、肺機能は低下する一方」 御坂の補足を聞き流しつつ、雇用主はよろしくない雲行きに眉を寄せる。 奴が余計な動きをしないよう、見張れとでも言うのか。それとも何か、牢屋で手足をふん縛れとでも。 「もう後がないなら、事実を知れば捨て身で飛び込んでいく。彼に心酔した大量の軍事関係者やPMCも雪崩れ込み、中東で三次大戦の幕開けだ」 「事実?」 「イラクで彼の部下が虐殺され、5名の遺体が行方不明になったとのことですが…実は存命の上、拉致されていたようです」 乗り上げていた机から飛び降り、サイファは上司の為に椅子のジャケットを取り上げた。 ランチのメニューを答えるような言い草だが、到底簡素な相槌は打てぬ内容だった。 「まあとっくに死んでいるでしょうが、恐らくISILの信用を得ようとしたトワイライト・ポータルにね。貴方は彼が――寝屋川庵が馬鹿な真似をせぬよう目を配らなければ、大切な御友人を失うことになりますよ」

ともだちにシェアしよう!