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chapter.4-32
「貴方様の会社に、国連がブラックリスト指定した社員が居ますね」
瞳孔の開いた目が猛禽を思わせる。
サイファの圧を受けながら、神崎はそっちに来たかと明後日を向いた。
「アイツは軽犯罪しかしとらんぞ」
「する可能性がある、という事です。彼は未だ聖地巡礼を続けるつもりですか」
「聖地巡礼ね…贖罪くらいほっといてやれよ」
「ご子息、サーが申し上げた通りこれは忠告です」
今にも食い掛らんばかりの威嚇は、寧ろこっちが本題だったと言わんばかりだ。
諸々医療器具の片付けに入る上司を後目に、サイファはトチ狂った色を覗かせて腰の拳銃を叩いていた。
「彼が火種を燃やすならば、我々は脳天撃ち抜かねばなりません」
「…まるでそうなる様な言い草だな」
「あの子の肺を移植したのが約16年前。脳死肺移植の場合、10年で生存率は50%台に下がる。以降も感染症の脅威と戦いながら、肺機能は低下する一方」
御坂の補足を聞き流しつつ、雇用主はよろしくない雲行きに眉を寄せる。
奴が余計な動きをしないよう、見張れとでも言うのか。それとも何か、牢屋で手足をふん縛れとでも。
「もう後がないなら、事実を知れば捨て身で飛び込んでいく。彼に心酔した大量の軍事関係者やPMCも雪崩れ込み、中東で三次大戦の幕開けだ」
「事実?」
「イラクで彼の部下が虐殺され、5名の遺体が行方不明になったとのことですが…実は存命の上、拉致されていたようです」
乗り上げていた机から飛び降り、サイファは上司の為に椅子のジャケットを取り上げた。
ランチのメニューを答えるような言い草だが、到底簡素な相槌は打てぬ内容だった。
「まあとっくに死んでいるでしょうが、恐らくISILの信用を得ようとしたトワイライト・ポータルにね。貴方は彼が――寝屋川庵が馬鹿な真似をせぬよう目を配らなければ、大切な御友人を失うことになりますよ」
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