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chapter.7-55
「俺は?」
「知りません」
相変わらず、御坂の子供たち2人は神崎に冷たい。
配達を終えたドライバーよろしく、マチェーテは神崎を放ったらかしたまま踵を返すや、国連軍に合流すべく階下へ降りて行った。
「君は部下が沢山来ているんだろう、一緒に帰れば良いじゃないか」
「あー…まあそう、面倒臭いけどそうだな」
何故か主犯と2人で取り残された奇妙な空間、神崎は臆するでもなく、相手に倣って嫌に晴れた外の世界を見ている。
「お前は世界平和でも望んでたのか?」
自分を追い回していたのはISILだ。もしかしたらこの男の指示で無かったかもしれない。
今になってはどうでも良い真相を放ったらかし、神崎は相手の矜持だとかそういうものを問うていた。
「戦争が嫌いなんだ」
「武器商社じゃなかったか?」
「嫌いになった、が正確だ。我々は死ぬまで商人で居たいものだね」
そんな文句で締め括り、セフィロスはもう景色から視線を外さず立っていた。
会話は終いらしい。
神崎も諸々後処理をするため背を向けたが、踏み出した矢先に相手の素朴な疑問が降って来た。
「神崎遥、君ならこの景色に幾らの値段を付ける?」
「景色?…さあ、要らんわ別に」
「ははっ」
はじめて快活に笑う。その反応を訝しむでもなく、神崎はお前はどうだと逆に聞き返した。
「私の資産は今や無い、が、そうだな…100万ドルくらいは稼いで払ってもいい」
「今だけだぞ、そんな事言えるのは」
「そうさ」
単調な声だ。木々が枯れ果て、命が亡くなり、砂と化したこの国の様な声だ。
誰かが不満を抱き、クーデターを起こし、すべてを手に入れた。そして欲に溺れ、圧政を敷き、利益を受け損なった人々がまたクーデターを画策した。
終わりのない因果を見てこの砂漠は、この男は疲れ果てたのかもしれない。
「…美しい空に満足する、そんなものは今だけだ。何も無くなった今、この一時だけなんだよ」
神崎は振り返り、男の望む空を見た。
矢張りありきたりで大した感動も無く、もっと美しい物を幾らでも知る神崎には取るに足らなかった。
寝屋川なら幾らの価値を付けるだろう。
アイツはいつも下を見ていたから、空の色など知る由も無いだろうが。
曰く、何も無くなった男を残し、神崎はその場を去った。
マチェーテは何故か、自らCEOの監視を怠っていた。
だからその後掻き消える様にセフィロスが居なくなろうが、捜す事はしないだろう。
彼の報告書に一言、生死不明と曖昧なレポートを付け足すだけで、この件は終いになる。
今日も空が青い、満足しようがしなかろうが、確かに当たり前は当たり前として存在するべきだ。
御坂は、セフィロスはそれを護った。
人々が見向きもしなくとも、今は空が青い事に感謝すべきか。
神崎は柄にもなく、一連の騒動をそんな文句で締め括った。
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