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Epilogue.1-1
『――カテゴリAの生物兵器を実験出来るかもしれません、エリア封鎖が必要ですが…都市ごとの実験など、実に貴重なサンプルが取れます』
淡々と続く音声データを再生しながら、本郷はやけに静かな外を覗き見た。
カーテンの隙間から窺えたのは、武装勢力と入れ替わりに乗り入れた国連軍の車輛だった。
『――当方はBacillus anthracis(炭疽菌)の改良版を保持しています、効果の実証が出来次第、是非ご検討を…』
「おいおい随分ヤバいデータが出て来たな」
ガロンの文句に頷き、本郷はこれ以上聞きたくないとばかりにテープを止める。
家探しは順調も順調。このテープに始まり、何だか誰かが端から証拠品として残しておいたかのように誂えられた資料が盛りだくさんだった。
「国連軍に提出するのか?」
「そうですね…一番ヤバそうなこのテープだけポケットに入れてしまいましょう、御坂に渡した方が世界平和の為になりそうだし」
「世界平和ねえ」
「因みに、外の戦闘は終わったんですか?」
「ISILは撤退した様だな、入れ替わりに国連軍が来た。誰の指図か知らんが用意周到なことだ」
誰のか知らない、等とぼかさずとも、そんな事をするのは御坂以外に考え付かない。
正規ルートで帰っても問題無いのだが、地下道をこちらへ向かっているかもしれない萱島と戸和は無事だろうか。
そんな心配をした矢先、実にタイミング良く無線が入った。
応答して件の二人の元気な声を耳にするや、本郷は安堵してこれからの対応へ話を進めようとする。
「…あ」
そして今度は立て続けにメールが来た。
借りものの携帯を開けば、ディスプレイに表示されたのは見知った宛先と、当人らしい実に緊張感に欠けた文面だった。
「――…萱島、戸和くん、2人ともお疲れ。現地解散…と言いたい所だけれど、君たちの憎き雇用主からメールが来ているよ」
外は次第に影が縮んでいた。この国の気候が牙を剥く前にさっさと帰るのが得策だろう。
しかし何だ、意図せぬままこんな場所に、気付けば皆で揃ってしまっている。
空が青い。我々の祖国と共通するのは、ほんの一握りそれくらいだと言うのに。
「”ウチの社員は取り敢えずエントランスに集合”だそうだ」
一件落着、では無いな。何も片付いてはいないと、本郷は固まった肩を回し解す。
しかしもう皆で戻るべきだ。この国にはこの国の、我々には我々の明日があり、互いに紡いだ日常を懸命に生きているのだから。
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