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Epilogue.1-2
***
「――”エントランスに集合”か」
黙って帰っても良かったが。
国連軍からこそこそ身を隠すのも癪だという雇用主の不遜さが透けて見え、無線を切った萱島は一人笑みを浮かべる。
外はもう安全な様だ。
地下道を引き返してティーバに挨拶した後、さて正面から本社へ向かおうと歩き出したが、不意に隣の青年から肩を止められていた。
「沙南」
「…あー…そっか、そうだね」
何か言いたげな視線を汲み取り、萱島は年上然として頷く。
不思議なことだ。いつもはっきり結論だけを告げてくれた。戸和は言葉すら言い淀んで黙りこくっている。
「行く前に話をしようか、少し」
じりじりと気温が上がり始めた歩道を歩き、観光には退屈に過ぎる茶色い街並みを過ぎる。
やがて川辺に辿り着くや、二人はタイヤやゴミの撃ち捨てられた砂道へ足を取られ、此処で良いかと立ち止まっていた。
いつか見た海とは比べ物にならない。
水位は低く、ゴミだらけで酷い有様だったが、萱島は現実らしくて良いな、と満足していた。
「…俺はこれから、帰って良いんだろうか」
少し後ろに立つ青年が、ようやっと本音の所を問う。
その弱弱しい声に、罪悪感に締め付けられる。萱島は情けなく眉尻を下げ、見た例もない姿の彼を振り返っていた。
「君を迷子にしてごめんね」
「迷子?いや、手を離したのは俺で…」
「違うよ。君が言ったんだ、初めて怒ったって…ああそう、そうだなって恥ずかしくなった。俺はいつも、君が完璧であると、何時も間違ってないと思い込みたかっただけなんだ」
戸和が居れば世界は完璧だった。すべて順調に進んだ。自分は甘んじているだけで事足りた。
そんな一方的な関係で保つ筈がなかった。その綻びに気付き、止まり、そして一時関係は砕け散った。
「君が俺に別れを告げたのも、君の判断なら正しいと受け入れようとした。君の…過ちを俺は、許さなかった。見捨てているのと同義でね。牧と御坂先生に怒られて気付いた、それは優しさじゃないって」
「…俺が、そういう風にしたんだ」
「どっちでもいいよ、何にしても君は物凄く格好悪かった」
追撃を加えようとしていた戸和が止まった。
足元では変な鳥だけがうろうろと歩き回り、時折その脇を滑るように乾いた紙屑が飛んで行く。
「ダサかった、正直ね」
腕を束ね、態々スタッカートを付けて言い募る。
間抜けに目を瞬く珍しい表情を前に、終いには言った方こそ気まずそうに視線を逸らしていた。
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