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Epilogue.1-3
「…でもだから何、好きだよ」
勝手に踵を返し、ひとり話は終わりとばかりに川を去る。
歩道に向かう姿へ呆気に取られながらも、青年は反射的に唯一無二で眩しい名を呼んでいた。
「沙南」
「大体俺の方が格好悪い所いっぱいあったじゃん」
「俺の方が好きだ」
「…何でそこで張り合う?分かんないなぁもう、君ってさ…」
子供のおいたに呆れる保護者の口調が投げられ、何だかなあ。生来初めてそんな不平を貰った青年は急に肩の荷が降りた心地で、つい足跡の残る砂を向いたまま笑んでいた。
「俺だってお前が分からない」
「まあね…暑いなあ、早く帰って冷たいお茶漬けが食べたい」
「肩は大丈夫なのか」
「外れかけたけど、別に何とかなったよ」
返答が遠ざかり、知らぬ間に空いていた距離へ面を上げた。
サンドカラー。地平線を隔てた青い空。ポストカードに嵌りそうな光景の中、か弱く小さい筈の身体が、はっきりと輪郭を保って世界を歩いている。
「何とかなった…か」
止まれば自分が置いて行かれそうな状況、青年は砂に埋もれた靴を引き抜いて追った。
そう言えば、この配色は真逆だ。あの夕焼けに見た海を逆さまにして、天地を引っ繰り返した、あの日とは真逆の
「――和泉!エントランスって何処?」
繊細な思考を壊し、俄かに前方のシルエットが声を張った。
道路には当たり前に複数のハンヴィーや戦車が走行しており、搭乗した国連軍がARに手を掛けて音源を振り向く。
「おい沙南、声を…」
「ヘイヘイ何かこっちに来るんだけど!何で!!…Please calm down、calm down,sir!!」
UNFからすれば封鎖エリアに銃を携えたアジア人が歩いているのだから、捕縛に走って当然だ。
肝心な所で注意散漫な相手に呆れ、戸和は両手を上げたまま渦中へと急いだ。
「僕たちは御坂先…所長の友達です、UNSDHの関係者?いや、関係者ではないですが…」
黄門の印籠で解決を図ろうとする萱島の背後では、重装甲の救護車がガタついた道路を滑り去っていた。
そう言えば自分事に感けてきてしまったが、みな無事なのだろうか。
脳裏に(主に寝屋川や本郷の)顔が浮かび、戸和はやっと常の相好で相手の肩を捕まえる。
「時間を取って悪かった沙南、急ぐぞ」
「いや急ぎたいのは山々なんだけどさ…Would you mind if I make a phone call?…Yes,yes!I am calm!」
珍妙な弁明で埒が明かず、青年は仕方なく解決を図って対立の合間へ入り込む。
時刻は間もなく午前8時。漸く一連の事件に幕を降ろし、日常へと帰る時間が迫っていた。
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