244 / 248

Epilogue.1-4

「寝屋川さんは病院へ向かった」 「…ほーん」 昇る煙。細い筋を見詰めながら、神崎は少女の報告を訝しんで聞いた。 あの手負いの獣がはい分かりました、と素直に治療に向かうとは思えない。思えない、が確かにウッドからも同様の報告を聞いてしまった手前、反論も挟めず頷くしかない。 「色々有り難うお兄ちゃん、私…」 「お前よー、そのお兄ちゃんってのやめろよ」 「何で?」 太陽から逃げる屋根を捜す自分に比べ、この少女と来たら何の気後れもなく殺人的な陽の下を歩いている。 眩しくはないのだろうか。色素の薄い目を持った宿命、こちらは会社まで薄暗い地下につくったと言うのに。 「って言うかさ、セフィロス様何か言ってた?私もう会えないのかな…死刑とかにならないよね?」 「なんねーよ、そもそも本気で捕縛する気も無さそうだし」 「そうなんだ、お兄ちゃん私と全然似てなくない?」 話題が受け手の反応も待たずに、当人のやりたいままころころ変わる。 外面はまあ兎も角、根本は正直自分に似ている…と神崎は無感情に考えて明後日を仰いだ。 エントランスに突っ立つ2人の周囲には、続々と到着したUNFの車輛が本社の封鎖に掛かっていた。 社員は集合、と招集したものの、派遣調査員はPMCと勝手に帰るだろう。そして寝屋川が早退したのでは、結局待つべきは3人程しか居ない事になる。 「私、セフィロス様のこと追い掛けようかなぁ」 「止めとけ止めとけ、お前こんな国に居るから楽しい事を知らないんだよ」 「ああそう、じゃあロスでも行こうかしら…家も無くなっちゃったし」 実家の様に思っていた。 泣き叫びたい悲しみと冷えた落胆が綯交ぜになり、パトリシアは窓ガラスの割れた本社を無言で眺める。 数人、建物の中からUNFに連れられた社員が現れた。 彼らはパトリシアに気付き、申し訳なさそうな、実に気まずそうな表情で口を引き結び視界を去って行った。 「…みんなセフィロス様と別な所からもお金を貰ってたって事?」 「まあそうだろうな、アイツの純粋な味方はお前だけだったって事だ」 「何それ?…良いね、それ」 手酷く裏切られた癖に、未だ慕っている様で何より。 ”恋する少女”とは明らかに乖離した妹へ呆れていると、当人は石段から腰を上げ、荷物を取り上げて出立の準備を始めていた。

ともだちにシェアしよう!