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Epilogue.1-5

「じゃあ、私もう行くね」 感動の再会、なんてある筈も無いが、それにしても会話はものの数分で終わってしまった。 パトリシアは手を振り、本社を後に石段を下ろうとする。 考えてみれば神崎が起業を決意したのも同じような齢だ。特に助言も干渉する必要性も湧かず、見送ったが。 「――…ぜえ、はあ…!間に合った?社長帰った?」 「居るぞ、そんな走らなくて良かったんじゃないのか」 「だって置いてかれたらもうこんな場所で生きていける気がしない」 「お前、さっきまであんなに格好良かったのに」 遠方から実に騒がしい2人組が現れ、石段の中途でボストンバッグを担いだパトリシアへ出会す。 少女の容貌へ2人組は瞬き、少女も相手の様子にまた停止した。奇妙な沈黙が続いた後、漸く2人組の一方――萱島が口火を切ったが。 「…社長が女の子になった!」 「ならんわ」 「あれ?社長居たんですか、ん?」 変に勘が鋭いお陰で遺伝子の類似を確信したのか、萱島の目が神崎と少女を見比べ何度も往復する。 「あの…自分たちは」 「…お兄ちゃんの会社の方ですか?」 「えっ、お兄ちゃん」 「お兄ちゃん…」 背後の戸和までも衝撃に思わず復唱したが、そう言えばかの副社長を説得に掛かった際、無線でそんな会話を交わした様な気がしなくもない。 ”『――この会社には遥の妹も居るし』 「…何?何て言いました?その妹ってヒト科ですか?」 『ふっつーに良い子だよ、ちょっと…いや結構似てるけど』” 「あの?私、変なこと言いました?」 目前の少女は可愛らしい。美少女、と言うよりどちらかと言えば親しみやすさの湧く可愛らしさだったが、すべてが人のスケールとして納まる故に可愛らしい。 背後の、合成実験の過程で人類の正義に反して生まれた元素みたいな雇用主と同種とは思えない。 しかしまあ、ずっと別な人生を送って来たのだ。同じ血を与えられたからと言って、神崎のゴミみたいな部分まで似通う術は無い。 「何も変じゃないです、お兄ちゃんの部下の萱島と申します、こっちは戸和くんです」 「お兄ちゃんって言うな」 「はじめまして、そうだ…私、ロスに行こうと思うんですけど、何かおすすめの場所ありますか?空港以外で」 ロスに。急な少女の話題転換を受け、萱島は隣の戸和と顔を見合わす。 この子は本郷の話によれば、此処で勤務していた筈だ。確かに会社はUNFに封鎖され、つまるところ行き場を失った事になるが。

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