77 / 77

ドキッと!?夏祭り 第9話

「駅でさ、アリサちゃんに"寺島君の彼女ですか?"って聞かれたじゃん。そのとき、寺島君が"俺の彼氏は雅実!"って言わなかったことが、何か悔しくって。もちろん、雅実君が一番辛かったと思うよ。少しシャイな雅実君だから、恥ずかしがると思うけど、けど、ちゃんと妹さんに紹介されたら、喜んだと思う」 一呼吸おいて、再び口を開くももチャン。 「でも、雅人の考え聞いて、やっぱり難しいことなんだと思った。偏見がないって簡単に言えるのは、それは私が他人だからであって、身内が、しかもお兄ちゃんが男の人と付き合ってるって知ったら…。女の子で、まだ中学生のアリサちゃんは、どうすればいいか分かんないよね、きっと…」 目線を下げ考えこむももチャン。 ホント、俺はいい子と巡り逢えたなぁ。 "他人事"とか言っときながら、真剣に二人のこと考えて。 「ももチャン」 俺が呼びかけると、ももチャンが顔を上げた。 「ももチャンの言うように、"他人(あなた)"に迷惑をかけてないんだけど…、その"他人(あなた)に"認められたいんだと思う。"他人(あなた)"が、自分にとって大切な人だったら尚更…。そうじゃなかったら、カミングアウトするかどうか悩まないと思う。俺だったら、どうでもいい人にどう思われようと構わない。大切な人だから、その人の思うような自分でありたい。けど、本当の自分はそうじゃない。そんな自分を知って、大切な人が離れてくんじゃないか…。常にその不安がくっついてるんじゃないかな…」 寺島が、雅実に告白した時のことを思い出す。 雅実が自分と同じ気持ちだと知り、心底ホッとした声を出した寺島。 ただ、雅実は、"寺島"が好きなだけであって、"男"が好きな訳ではない。 でも、寺島は…、たぶんそうじゃない。 「寺島の今までの恋愛事情は知らないけど、そのことで、寺島は、きっとずっと、悩んできたと思う。それは、大切な人ができる度に増えてくることで、これから先も悩んでくんだと思う。だから、その伝えるタイミングは、寺島に任せたい。今回みたいに、それで雅実が傷ついたとしても。きっと、同じように寺島も悩んで傷ついてると思うから」 俺の言葉を聞いたももチャンが、クスリと笑った。 何か可笑(おか)しかったのだろうか? 「ももチャン?」 不思議に思ってももチャンを呼ぶと、グイッと一歩俺の方に近付いたももチャン。 そして……。 「うん!雅人に惚れ直した!」 ――ちゅっ―― 「さ、花火と雅実君たち見よ?」 そう言ってまた、前方を向いたももチャン。 「ももチャン…」 な、なんて君は奔放なんだい。 もう、そんなことされると、俺……。 前を向いてももチャンの頬に触れようと手を伸ばしたとき、 ――ひゅぅ〜……ドーーーンッ―― 盛大に花火が上がった。 と同時に、 「あ、雅人、見て!!」 前を向いたままのももチャンが、俺の肩をバシバシ叩く。 その言葉に前を向くと、 「あっ…」 ――ひゅぅ〜……ドーーーンッ―― 「キスの後見つめ合う二人……もう最高……」 ゆっくりと触れていた唇を離し、優しく微笑み見つめ合う雅実と寺島。 「なんだか、こっちまで幸せな気持ちになるね…」 感嘆を溢したももチャン見ると、その瞳も何か溢れ出そうだ。 そんなももチャンに、俺が優しく微笑んでも、熱心に前を見ているももチャンは全然気付かない。 「そうだね…」 再び前を向くと、雅実が寺島にキスしていた。 「ちょっ?!雅実君!!」 それを見て、花火のように盛り上がるももチャンに苦笑する。 ホント、ももチャンは変わり身が早いなぁー。 あーあ、俺も雅実みたいにチューしたかったのになぁー。 寺島も締まりのない顔しちゃってさー。 と、ひっそりだけどラブラブな二人が羨ましいなぁと思いつつ、俺もこっそりももチャンの手を握ったのでした。

ともだちにシェアしよう!