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第1話 予定外の外出

櫻井(さくらい) 裕翔(ひろと)は完全に不貞腐れていた。 折角の休日だと言うのに、無理矢理オニ…姉の買い物に付き合わされているからだ。 休日一日目、土曜日の今日は部屋で一人ゆっくり寛ぐつもりで、昨日の仕事帰りには 待ち侘びた週末だ!とはしゃぐ同僚を横目に居酒屋の三軒隣の本屋に入り、話題の単行本を手にほくほく気分で帰宅したものだ。 だから今日は、一日中読書に浸るつもりで、起きて朝一スコーンを焼いて、ボーナスで奮発して買った高級アールグレイティーを冷やして。準備万端だったというのに……… 何故自分は今、ショッピングモールなどに存在しているのか───!? その余りにも予定を無視した現状に、不機嫌にならない筈もない。 しかし相手がオニ…姉であるが故、決して態度や表情に出すようなヘマはしない。 だからと言って笑顔を作れる程に人間が出来ている訳でもなく…… ショップバッグを両腕に下げた姉の後ろを、その倍のショップバッグを手にせめて無表情でついていくしか、裕翔に許された選択肢は無いのである。 裕翔が姉に気付かれぬよう、顔を背けてそっと溜め息を吐いたその時だった。 「───おっ、櫻井じゃねーか」 裕翔よりも低い男の声が耳に飛び込んできた。 足を止めて、人混みの中、声の主を見つける。 「……松崎さん」 視線の先で軽く手を上げ笑みを見せたのは、裕翔の上司である松崎(まつざき) 健吾(けんご)だった。

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