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第2話 上司はイケメンゴリラ

「おー、奇遇だな。お前も買い物か?」 呑気に髪をかき上げ笑った松崎は、一人先に進まされたことに気付き怒って戻ってきた裕翔の姉・花凛(かりん)に一瞬目をやると、次の瞬間意味の異なる笑みをニヤリと浮かべ、からかうように裕翔を肘で(つつ)いた。 「こんな美人さん連れて、櫻井も隅に置けねーなぁ」 「姉ですよ。姉の花凛です」 その遣り取りに慣れているのか、うんざりした表情でそれだけ答えると、裕翔は松崎を示し、 「うちの主任(チーフ)の松崎さん」 と短く紹介する。 「はじめまして。営業部営業二課、主任の松崎です」 松崎と言えば、仕事(戦闘)用のスーツを脱ぎ去り、休日仕様の服装は、シンプルな黒のシャツにラフなチノパン。 身体にフィットしたシャツはその盛り上がった胸筋、腹筋を惜しみなく晒し、まるで…… 「………ゴリラ…」 「誰がゴリラだ!」 何処からどう見ても筋肉大好きスポーツマンの短髪長身男は、もはや人類ではなくゴリラだと思うのだが、裕翔はそれを口にする度 頭を軽くはたかれている。 「はじめまして〜。櫻井の姉の花凛と申します。弟がいつもお世話になっております。松崎さんとおっしゃいますのね。下のお名前をお伺いしてもよろしいかしら?」 今の今まで裕翔を「非力野郎」「使えねぇ」等と口汚く罵っていたオニの声が、ワントーン上がった。 花凛は大の筋肉(ゴリラ)好きなのである。 それも、ゴリラの中でも貴重種の、イケメンゴリラに拘っている。

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