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第3話 ゴリラのくせに
「ははっ、自分の名前なんて平凡だから、聞いても面白いことありませんよ」
松崎はカラリと笑うと、花凛の好意をサラリと躱す。
この男、見た目はゴリラだが、何故か社内では異様にモテていた。
話しやすい雰囲気ゆえか、仕事が出来るからか、はたまたその見た目が与える安心感からか。
一億総活躍、働き方改革などと無理くり名付けられたこの社会。疲れ切った女性達には、すべてを預けて寄り掛かれる逞しさが求められているのかもしれない。
が、松崎はそんな彼女たちの誘惑からのらりくらりと身を躱し、独り身を楽しんでいた。
ゴリラのくせに、好みに煩いらしい。
“性別が女”であるだけでゴリラには充分だろう。
裕翔は上司に対し、失礼にもそんな事を思っていた。
それともそれ相応の“メスゴリラ”的な逞しさが必要なのだろうか。
そうではないと分かっていても、そう嘯かずにはいられない。
何故ならこの上司 は───
「それにしても勿体無いなあ」
「勿体無い…? 何がですの?」
「いえ、櫻井のお姉さんなのに、余り弟さんと似てないなあと」
「え……? ええ、それは…よく言われますが、……?」
「櫻井と同じ顔をした女性ならなあ……。いやあ、勿体無い」
───裕翔の顔を理想そのものと公言している、セクハラ上司なのだから。
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