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第4話 広い背中
両手に余るショップバッグを持たされ、裕翔は憮然としていた。持てない分は足元に置いていかれた。
「アンタ馬鹿か!」
上司に対する敬意など、新入社員歓迎会の日を境に、とうに消え去っている。
「おー、すっげぇ荷物。つかお前の姉ちゃん強ぇのな」
「滅茶苦茶強くて恐いです」
タイプのゴリラに、自分ではなく、余り似ていない弟の顔が好きなのだと暗に告げられた姉は、当然の如く気分を害した。
「ジムに行ってくるから、これ全部持って帰って、私の部屋に置いといて」
美人の弟に、怒り任せに荷物をすべて押し付けると、彼女は鼻息荒く、趣味のボクシングジムへと向かったそうな…………。
「───不条理だ!」
「おう、お前これから時間あるか?」
「あるように見えますか!?」
姉の怒りの原因を作った男は、悪びれる様子もない。
「これを置きに帰らないと殺されるので」
まるで翼のように両腕に広がる目一杯の荷物、プラスアルファ。
行きは姉の運転する車の助手席に、背筋をピンと伸ばし静かに、大人しく座っていればそれで良かったが、帰りは………
駅まで徒歩十分の道のりに、電車は乗り換え含め三十分。最寄り駅から自宅までは徒歩で十分弱の平坦な道だが、姉の部屋は家の最上階、3階だ。
運転免許証を保持していない訳ではないが、車のキーは姉の手の内。
本来ならば、買い物中と車まで。駐車場から姉の部屋まで、のみの移動距離で済む筈だったと言うのに………
「その後は?」
「ぐったり休みます」
この男が声を掛けてきたばかりに、不用意な発言をしたばかりに、───散々だ!
「暇ってことな」
じとりと睨み付けられていると言うのに全く介さず、両手が塞がって振り払えない裕翔の頭を楽しげに撫でると、
松崎は彼の持つ袋、足元の袋さえも全部取り上げ、歩き出す。
「えっ…、ちょっ…!」
「車で来てるから、運ぶの手伝ってやるよ」
「あっ……、それ…は、助かりますけど…」
「だからその後、昼飯に付き合え。な?」
「…………わかりました。昼飯くらいなら…」
裕翔はその広い背中を追いかけながら、渋々ながら頷いた。
それにしても………
自分だって成人男性の平均身長はあるし、手脚だって長い方なのに……。
立ち止まって持っているのが精一杯だった大量の荷物は軽々と運ばれ、足早に歩かれれば小走りにならざるを得ない。
そんな現状に、裕翔は納得いかず、無意識に口を尖らせたのだった。
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