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第1話

 初めて無くなったのはペットボトルだった。飲み終わって後で捨てようとしたら、誰かが捨ててくれてた。そんなくらいにしか思って無かった。  数日後、シャープペンが無くなった。どこか忘れたか落としたのかと思った。 「ねぇ。僕のお菓子知らない?みんなと飲み物買いに行く時、机に置いといたんだけど」 「食ってねぇぞ?」  翌日、お菓子が無くなった。まだ、半分くらい残ってたのに。  また、飲みかけのペットボトルが。お菓子が。無くなった。  全部、全部。印を入れた。教科書、ノート、筆記用具。ありとあらゆる持ち物に僕しか分からない印を入れた。  だからそれを持っていればすぐに分かる。僕が飲んでいたお茶を誰が持っているのか。僕が使っていたマーカーを誰が使っているのか。 「天子、帰るぞ」 「うん」  帰り際、机に置いたリップクリームが翌朝には無くなってた。昨日、教室に残っていたのは茂木くん。日直当番で教室に一人、日誌にかじりついていた。  気のせいかも知れない。だって茂木くんは普段はすぐに帰ってしまう。だから彼が犯人では無い。  なのに。鞄のサイドポケットから出てきたリップクリームには、僕の印が入ってる。  なんで?なんで、それを使ってるの?嫌がらせ? 「僕の下敷き見かけなかった?」 「天子、最近そんな事ばっか言ってねぇ?」 「うーん。また無くなっちゃったんだよね」  購買部で買った、どこにでもある下敷きだけど。授業中、ノートに差し込まれたそれが誰の物だか僕には分かる。その定規も、全部。全部。  気持ち悪い。平気で盗んだ物を使い続ける茂木くんが。だから、今度は机にハンカチを置いて帰った。 「ごめん。忘れ物したから先帰って」 「待ってるぞ?」 「大丈夫!」  戻った教室には、茂木くんがいる。 「茂木くん。なにしてるの?」 「天子、帰ったんじゃ……」  茂木くんの手にはしっかり僕のハンカチが握られてる。やっぱり茂木くんだったんだ。こんな陰湿ないじめをするなんて許せない。仕返ししてやる。 「ありがとう。ハンカチ、拾ってくれたんだね」 「あ、うん……」  嘘ばっかり。おずおずとハンカチを差し出して来た茂木くんは、全く僕を見ていない。 「最近、忘れ物ものしちゃう事が多くて。この間もシャーペンが……」 「ああ、緑の……」  あれには印がない。だから半信半疑だったけど、それもやっぱり茂木くんが持ってるんだ。 「そう、そう!見つけたら教えてくれる?」  戻ってこないのはわかってる。どうせ壊したりとかしてるんだろう。なのに、茂木くんは翌日それを持ってきた。まぁ、罪悪感はあるんだ。 「あぁ~!僕のシャーペン!見つけてくれたんだね。ありがとう」  なら、バレてしまえばいい。この数ヶ月、茂木くんが僕に何をしてきたのか。

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