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第9話
「嫌ならついてきて」
「はい……」
小さく返事をした茂木くんはゆっくりだけど、僕についてくる。
「茂木くん、ここ座って」
「うん……」
茂木くんは、のそのそと体を動かして僕が指さした場所に座る。
「もっと後ろ。ズレて!」
仕切り直し。ちゃんと両思いになる!
「もっと、後ろ!」
「え?あ、うん……」
茂木くんの背中がベッドにくっ付くまで合図を送って、僕は考えていた行動にでる。
「うわっ!」
「うるさい!」
びっくりした。茂木くんそんな大きな声出せるんだね。思わず耳ふさいじゃった。
「な、なんで、そんなとこ座って……」
茂木くんに意識して欲しいからでしょ。
「茂木くんにはこれから座椅子になって貰います。……なんか、文句ある?」
「いえ……」
茂木くんに背中を預けて映画鑑賞開始。前から見たかったホラー映画。ひとりで見に行きたくなかったし、だからと言って友達の溝田くんを誘うのもなんか嫌で、ずっと見られなかったんだよね。
そう言えば、茂木くんはホラー大丈夫なのかな?そう思って見上げた茂木くんは映画に集中力してる。
「……」
映画は噂通り血が吹きだすわ、ゾンビは出てくるわで、気持ち悪いシーンやびっくりするシーンが連続して押し寄せてくる。茂木くんがいてくれたから怖くなかったし。うん。
「結構面白かったかも」
けど、ちょっと疲れた。ぐっと伸びをして、僕は茂木くんの腕を掴んでたんだって気づいて、ちょっと恥ずかしい。
「茂木くん……」
ちょっとは僕を意識してくれた?さっきベッドを見つめてたけど、そういう気持ちになった?そう思って仰ぎ見た茂木くんは未だに硬直してる。
「茂木くん、あのね……」
誘うなら、今かな?まだ早い?
茂木くんの腕を握りしめて様子を伺ってると、どこからともなく唸るような音がする。
「あ……」
茂木くんのお腹の音?
「お腹空いてるんならお菓子食べればいいのに。お茶も……」
「いや、いい……」
まだ、ダメなの?僕の事好きって言ってくれないの?
「つまんない……」
「え?」
「買い物行こっか」
時間的に夕飯は早いよね。って言っても茂木くんお腹空いてるみたいだし、ケーキも違うか。
茂木くんってなんか作れるのかな。僕が作ってもいいんだけど、茂木くんが作ったご飯食べてみたい。僕が教える?それとも、レシピの本を買う?うーん。どうしよう。
「茂木くん、料理出来る?」
「インスタントラーメンくらいしか……」
「インスタントかぁ……」
ラーメンって気分でも無いし。他に簡単に作れるものは。
「あ!じゃパスタでいいや」
パスタなら、茹でて和えるだけだもんね。それにサラダ付けたら見た目もいいし。後は適当に飲み物を買って帰宅。
パスタのストックと調理道具を並べる横で茂木くんは食材をじっと見つめてる。
「分からない事あったら言って。じゃ、後はよろしく」
パスタくらいなら大丈夫だよね?それから程なくして、水音が聞こえて、包丁とまな板がぶつかる音がする。
ドキドキ、そわそわしながら待った食卓には、僕のイメージ通りのご飯。まあ、パプリカが随分歪だけど。
「初めてにしては上出来なんじゃない?」
茂木くんと食べる茂木くんのご飯。
「ん〜!美味しいー」
ずっとこうだったらいいのに。毎日茂木くんと一緒にいられたらどんなに幸せなんだろう。ほら、茂木くんの事を考えると、また心が暖かくなってくる。
もっと、もっと。僕のわがままを聞いて欲しい。もっと一緒に居たい。
「お皿洗い終わったら、お風呂洗ってきて」
「おふ、ろ……?」
「夜はお風呂入るでしょ?それに、茂木くんに否定権はありませーん!」
「わかった……」
ボソリと呟いてバスルームに向かう茂木くんを、僕は横目で見送る。
「もう、七時だ……」
テレビの端に映し出された数字。
そろそろ本気で茂木くんの気持ちを聞かないと。
「天子、お風呂、終わったけど……」
「ありがとう。ねぇ、茂木くん」
僕は横に体をずらして、促す様に横にあるクッションを軽く叩く。
「お風呂が湧くまでなにしよっか?」
茂木くんがしたい事を話して?
「茂木くんは、やりたい事ある?」
僕はあるよ。だから、横に座って話ししよう?
なのに、茂木くんはまた立ち尽くしたまま、動こうとはしない。
「茂木くんは、僕としたい事あるでしょ?」
もう一度、ソファーを叩いてみても茂木くんはただ、僕を見つめてる。
「茂木くん……?」
「天子、あの。俺。もう二度とあんな事、しない。天子にも近づかない……」
あれ?おかしい。そんな展開になる予定じゃなかった。なんで?どうして?僕わがまま言いすぎた?
「やだ……そんなの、絶対に許さない……」
「本当にごめん。俺、ちゃんと反省してるから、天子に迷惑かけるような事は、二度としないから……」
リビングで頭を深く下げる茂木くんは、ここ数日そうしてきたように、僕と関わらない様にするんだろう。
じゃあ、僕の気持ちは?この気持ちはどうしたらいいの?
「この数ヶ月、僕がどんな気持ちで過ごしたと思ってるの?」
「気持ち、悪かったと。思う……」
違う。
「嫌な気持ちに。させたのも、分かってる……」
違う。違う。
「茂木くんは、全然分かってない!」
僕は毎日。茂木くんの事を考えて、茂木くんの事を想って。バカみたいに茂木くんに。ぬいぐるみに話しかけてた。
「なんで、分かってくれないの?なんで僕を襲おうとしないの?」
僕は茂木くんが好きなんだよ。
「ん……」
ずっとこうしたかった。こうしてみたかった。
「僕も茂木くんが好きなの!好きになっちゃったの!」
僕の唇が離れた茂木くんは、呆けた顔をして僕を見ている。
「僕達、恋人同士になるんだよ」
「え?ぇぇぇぇぇえー?」
「驚き過ぎ!嫌なの?」
「いや、あの。そんな、事。ないです……」
嬉しい。やっと僕達両思いになれた。
「茂木くん、大好きだよ」
茂木くんの背中に手を回して、改めて触れた唇にリアクションはなかったけど。これで一歩進めた。
こんな理想の固まり、手離したくない。
「僕から離れるなんて、絶対に許さないんだから」
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