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第8話
「これで、よし!と……」
部屋にリビング、水周り。母親が突然帰ってきて家の中が荒れてると怒られるから、定期的にやってはいるけど、念には念を入れる。
「うっそ……。やばい、着替えて、ああー!お菓子も飲み物も準備出来てなーい!」
一息吐こうとスマホをみたら、もう約束の時間まで十五分しかない。ちゃんと茂木くんを迎えたかったのに、しかたない。
『こっちに来る時、お菓子と飲み物買ってきて』
メッセージを送った後、急いで身支度を整えるとインターフォンが鳴る。
なんとかギリギリ間に合った。
「いらっしゃい」
「……ここって?」
招き入れた茂木くんは、辺りをぐるっと見回してそう呟く。
「僕の家だけど?茂木くんなら、知ってるかと思った」
僕の事好きならそのくらい知ってて当たり前だよね。
「いや、俺。跡つけたりはしてなくて……」
「ふーん。そうなんだ」
でもそういう事を言うって事は、やっぱり僕の事好きって事だよね。あー。もっと僕の事は意識してほしい。
顔を近づけたらドキドキする?手が触れたら僕に触りたくなる?
なのに茂木くんはコンビニの袋を持ったまま固まってる。
やり方間違えた?
「あ、これ、気になってたやつ……」
凄い。受け取った袋の中身は、僕が好きな甘い物がいっぱい入ってる。
「さっすが茂木くん。僕の好きな物ばっかり」
こういうされると、もっと好きになっちゃうよね。早く、茂木くんの気持ち確かめなきゃ。
「茂木くん……」
「あの。天子の、親御さんは……?」
「うーん?居ないよ?僕と茂木くんのふたりっきり」
だから何してもいいんだよ。茂木くんがしたい事していいんだから。
「早く上がりなよ」
楽しみ過ぎて落ち着かなくなってきた。
「ねえ、茂木くん」
え?なんでまだ玄関にいるの?入ってこようとしないの?
「茂木くん、どうしたの?」
そう言っても、茂木くんはじっと足元を見つめたまま動かない。
「茂木くん?僕の部屋行こう?」
まるで僕の声なんか聞こえてないみたいに、茂木くんは手を握しめて微動だにしない。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
「茂木くん、僕ね……」
ダメだ。僕すらも見えてない。
「茂木くん!」
「あ……」
体を揺すって初めて僕を見てくれる。
「茂木くんが、返してくれたシャーペン……」
もう脅すとかしたくないのに。でも、そうしないと茂木くんは僕と一緒にいてくれない気がして。
「みんなにも探してって言っちゃって」
こんな事言いたくないのに。言葉が止まらない。
「見つかったって言っても、いいかな……?」
「それは……」
困らせたいわけじゃない。好きだって伝えたいだけなんだよ。
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