8 / 9

第8話

「これで、よし!と……」  部屋にリビング、水周り。母親が突然帰ってきて家の中が荒れてると怒られるから、定期的にやってはいるけど、念には念を入れる。 「うっそ……。やばい、着替えて、ああー!お菓子も飲み物も準備出来てなーい!」  一息吐こうとスマホをみたら、もう約束の時間まで十五分しかない。ちゃんと茂木くんを迎えたかったのに、しかたない。 『こっちに来る時、お菓子と飲み物買ってきて』  メッセージを送った後、急いで身支度を整えるとインターフォンが鳴る。  なんとかギリギリ間に合った。 「いらっしゃい」 「……ここって?」  招き入れた茂木くんは、辺りをぐるっと見回してそう呟く。 「僕の家だけど?茂木くんなら、知ってるかと思った」  僕の事好きならそのくらい知ってて当たり前だよね。 「いや、俺。跡つけたりはしてなくて……」 「ふーん。そうなんだ」  でもそういう事を言うって事は、やっぱり僕の事好きって事だよね。あー。もっと僕の事は意識してほしい。  顔を近づけたらドキドキする?手が触れたら僕に触りたくなる?  なのに茂木くんはコンビニの袋を持ったまま固まってる。  やり方間違えた? 「あ、これ、気になってたやつ……」  凄い。受け取った袋の中身は、僕が好きな甘い物がいっぱい入ってる。 「さっすが茂木くん。僕の好きな物ばっかり」  こういうされると、もっと好きになっちゃうよね。早く、茂木くんの気持ち確かめなきゃ。 「茂木くん……」 「あの。天子の、親御さんは……?」 「うーん?居ないよ?僕と茂木くんのふたりっきり」  だから何してもいいんだよ。茂木くんがしたい事していいんだから。 「早く上がりなよ」  楽しみ過ぎて落ち着かなくなってきた。 「ねえ、茂木くん」  え?なんでまだ玄関にいるの?入ってこようとしないの? 「茂木くん、どうしたの?」  そう言っても、茂木くんはじっと足元を見つめたまま動かない。 「茂木くん?僕の部屋行こう?」  まるで僕の声なんか聞こえてないみたいに、茂木くんは手を握しめて微動だにしない。  どうしよう。どうしたらいいんだろう。 「茂木くん、僕ね……」  ダメだ。僕すらも見えてない。 「茂木くん!」 「あ……」  体を揺すって初めて僕を見てくれる。 「茂木くんが、返してくれたシャーペン……」  もう脅すとかしたくないのに。でも、そうしないと茂木くんは僕と一緒にいてくれない気がして。 「みんなにも探してって言っちゃって」  こんな事言いたくないのに。言葉が止まらない。 「見つかったって言っても、いいかな……?」 「それは……」  困らせたいわけじゃない。好きだって伝えたいだけなんだよ。

ともだちにシェアしよう!