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第7話
電車に揺られながら、途中の駅で茂木くんと別れて。今日の事を思い返す。
「……」
不思議と胸がぽかぽかする。茂木くんと居た時間は凄く楽しかった。久しぶりに思いっきり感情を出しても怒られる事も無ければ気持ち悪がられる事も無かった。
小さい頃。共働きの親に一緒に居てって、行かないでって泣いて叫んでも怒られるばかりで、結局一緒にはいてくれなかった。
小学生の時、いつも遊んでた友達に距離感がおかしいと気持ち悪がられた。
でも、茂木くんは……。
困ってはいたけど、そのどちらでもない気がする。
茂木くんの気持ちが知りたい。
どうして僕の物を盗んでたのか。
どうして、僕の物を使ってたのか。
「ただいま……」
帰った家は真っ暗で、誰かに聞かれること無く風と消えていく。
ここ数年、ただいまと言うことすら忘れてしまってたのに。なんで今日に限って言ってしまったんだろう。
「……ふっ、ぅ……」
寂しい。悲しい。
「茂木くん……」
ぬいぐるみに縋たって、抱き返してはくれない。
「茂木くん……」
誰かに必要とされたかった。ただ、ひたすら笑顔を張り付けていい子を演じる自分から解放されたかった。だから僕の物を欲しがる茂木くんを、僕の物を使い続ける茂木くんを。心のどこかで喜んでた気がする。
「欲しがる……?」
茂木くんは、僕の物を盗んじゃなくて、欲しがってた?
そう思ったら。どんどん茂木くんの事が気になってくる。もし、茂木くんが僕の物を欲しがってあんな事してたら。もし、そうなら。茂木くんは。
僕の理想の相手なんじゃないだろうか。
「返事無いし……」
帰宅後直ぐに送ったメッセージは既読になってるのに、全く返事が来ない。
シャワーを浴びた後もそれは変わってなくて。待ってる時間がもどかしい。翌日も、その翌日も。茂木くんは本当にすぐに返事をしてこない。
「やっぱり、好きじゃないのかな?」
ベッドの横でふにゃりと座ったぬいぐるみに話しかけたって、答えてくれるわけないのに。僕、何やってるんだろう。
あの日から、僕の物が無くなる事は無くなったし、勿論、茂木くんが僕の物を使う事もなくなった。
それでも時折感じる、茂木くんの視線。だからまだ、茂木くんは僕の事を気にしてるはず。
「なんだけどなぁ……」
『おやすみ』
そうメッセージを送っても。すぐ見るくせに、リアクションしてこない。
「はぁ……もう寝よ……」
待ったってしょうがない。毎晩、毎晩。ぬいぐるみを抱いて寝るのはもう嫌。このぬいぐるみは茂木くんだけど、茂木くんじゃない。
「明日、土曜の十三時にここ来て。っと……」
あ、住所送り忘れた。
「一応理由もいるかな?」
翌日、僕はかけにでる。
お金の事と住所をメッセージして、茂木くんの反応を待つ。数時間してやっと戻って来た返事は簡素なものだったけど。それでも、やっぱり嬉しい。そして翌日。僕は家の中を掃除して茂木くんを迎える準備に勤しむ。
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