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第54話 屋烏乃愛
僕がぼんやりとしている間に、悠ちゃんが着替えさせてくれて、少し味の薄いお粥を食べさせてくれて、薬も飲ませてくれた。ついでに昨日、涼さんが消毒してくれた額の傷に薬を塗ってくれる。
熱は上がりはしてないけど下がりもしてなくて、まだ微熱が続いていた。だから、二人して今日は学校を休むことにした。
午前中はウトウトと微睡んで過ごし、昼からは、ソファーに悠ちゃんと手を繋いで並んで座り、録画していた映画を見た。
二人で映画を見ながら、感想を言い合ったりうたた寝したり。悠ちゃんと、再びこんな幸せな時間を過ごせる時が来るなんて思わなかった。
僕は多くの幸せは望んでいなくて、ただ悠ちゃんと同じ空間にいれたらそれでいいと思ってたんだ。
映画が終わった頃に、悠ちゃんがポツリポツリと話してくれた。
初めて会った時から、僕が可愛くて仕方なかったこと。
僕が他の男の子と仲良くしてる姿を見ると、腹が立って仕方がなかったこと。
僕に触れると、すごくドキドキとして嬉しかったこと。
僕に触れたい欲求が強くなって、これではダメだと、僕が悠ちゃんから離れていくように、わざと冷たい態度を取るようになったこと。
今年の春、一年振りに僕に会って、気持ちが薄れるどころか益々愛しく思うようになったこと。
僕と拓真の距離が近いのが、ものすごく面白くないこと。
悠ちゃんが、そんなにまで僕のことを考えていてくれたことが嬉しい。嬉しくて堪らなくなった僕は、「くっついてもいい?」と許可をもらって、悠ちゃんの膝の上に向かい合わせで座った。
悠ちゃんの肩に頭を乗せて、ポツリと呟く。
「悠ちゃん、ありがと。悠ちゃんの気持ちが知れて嬉しい。僕、ずっと悠ちゃんは、血の繋がらない弟がうっとおしいんだって、思ってた。それでも僕は悠ちゃんが大好きで、諦めるなんて出来なかった。だからせめて、弟として近くにいれたらそれでいい…って。でもまさか、こんな幸せな時が来るなんて、思ってもみなかった。どうしよ…悠ちゃん…。僕、幸せ過ぎて怖い…」
「それを言うなら俺だってそうだ。あんなに触れたいと熱望したおまえを、こうやって思いっきり抱きしめることが出来る。嬉しくてどうにかなりそうだ。おまえに触れて、体温を感じて匂いを嗅いでしまうと…もうマズい…」
僕の髪の毛を優しく梳いていた悠ちゃんの手が止まる。不思議に思って頭を起こして悠ちゃんを見た。少しつり上がった二重の目の奥に、僕を捉える炎が見えた気がしてドキリとした。悠ちゃんに見つめられて恥ずかしくなり身じろぎをした僕のお尻に、硬いモノが当たっている。
「あ…っ」
「…玲、昼に計った時、熱下がってたよな。治ったばかりで悪いけど、俺はもう、我慢できない…。もっと、おまえに触れたい」
僕の額に額をつけて、唇が触れそうな距離で、悠ちゃんが熱い息を吐く。
僕は、火が出てるんじゃないかと思うくらい熱くなった顔を縦に動かして、間近にある悠ちゃんの目を見た。
悠ちゃんの目が細められて、僕の唇に唇を触れさせる。触れさせたまま、「玲、愛してる」と言って、強く唇を合わせてきた。
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