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第111話 絶体絶命

「…つっ!このクソガキっ!待てっ」 一瞬怯んだ正司さんが、すぐに怒りを露わに追いかけて来る。 僕は、後ろを振り返るのが怖くて、前へ前へと木々の間を走り抜けた。 「玲っ!どこだっ!玲っ」 「悠ちゃんっ。ここだよっ!助けて…っ」 「玲っ、玲っ!」 悠ちゃんの声に向かって走っていると、突然、目の前が開けて湖に突き当たった。僕が気に入って何度か来た湖。それを囲む道の少し先に、悠ちゃんの姿が見える。 僕はホッと息を吐いた。 悠ちゃんも僕に気づいて、駆け寄って来る。 「玲っ。大丈夫かっ?」 あと数歩で悠ちゃんの手が僕に届くというところで、背後から正司さんが現れて、僕を捕まえようと手を伸ばした。 ーーいやだ。絶対に捕まりたくない…っ。 強い嫌悪を感じた僕は、咄嗟に目の前の湖に飛び込んだ。 冷たく澄んだ湖は、意外と深くて僕の身体がゆっくりと沈んでいく。 ーーあの人に捕まるくらいなら、このまま湖の底に沈んでしまった方がいい…。悠ちゃん…、ごめんね。また心配かけさせちゃったね…。 心の中で悠ちゃんに謝りながら、そっと目を閉じた僕の身体が、力強い腕に抱き寄せられる。ああ、この腕はよく知っている。僕が唯一安心できる大好きな…。 ザバリと水の中から浮き上がり、すぐ目の前の人物を見た。 「玲っ、玲っ!しっかりしろっ」 「ゆ、ちゃん…?悠ちゃん…。うっ、うわぁん…っ」 「もう、大丈夫だ…」 しっかりと僕を抱きしめる悠ちゃんにしがみついて、僕はポロポロと涙を流しながら、声を上げて泣いた。

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