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第114話 絶体絶命
翌朝起きると、僕と悠ちゃんの荷物がまとめられていた。鞄と悠ちゃんを交互に見て、首を傾げる僕に、悠ちゃんが僕の頰を撫でながら言う。
「玲、すぐに家に帰ろう。家で、二人でいよう。ここにいると、また誰かがおまえを連れ去ろうとするんじゃねぇか…って、不安で堪らない。だから、俺と一緒に帰ろう」
悠ちゃんの言葉を聞いて、僕は笑って頷いた。
「うん、帰る。帰って、悠ちゃんと二人だけで過ごしたい…」
「よし。じゃあ、朝飯食ったら帰るか。あ、涼にはもう言ってあるから」
せっかく涼さんや拓真と楽しく過ごしていたけど、昨日のことで、僕は不安でいっぱいになってしまった。このままここに居続けたとしても、きっと楽しめない。
僕と悠ちゃんは、鞄を持ってリビングに降りて行った。
リビングでは、涼さんがいつもと変わらない笑顔で挨拶をしてくれる。
拓真は浮かない顔をしていたけど、僕が先に帰ることを謝ると、大きく首を振って、「気をつけて帰れよ」と笑顔を見せた。
クロワッサンとミルクティーとヨーグルトの朝食を済ませてから、歯を磨いて髪を整える。
僕と悠ちゃんの準備が終わると、玄関で二人に挨拶をした。
「涼、世話になったな。途中で抜けて悪いな」
「涼さん、ありがとうございました。とても楽しかったです。拓真もまたね。課題、頑張ってよ?」
僕たちの言葉に、涼さんは笑って、拓真は寂しそうにして、言った。
「悠希、しっかりと玲くんを守れよ。玲くん、気をつけてね。帰ったら、また顔見に行くよ」
「玲っ、気をつけて帰れよ。着いたら連絡くれよ?悠希さん、玲のこと、よろしくお願いします」
僕は大きく頷いて、二人に手を振った。
悠ちゃんも頷くと、僕の背中を軽く押して、玄関の外へと促す。玄関前の階段を降りてもう一度振り返り、見送る二人に笑顔で手を振ると、悠ちゃんにその手を掴まれた。
僕と悠ちゃんは、しっかりと手を繋いで別荘を後にする。
僕は、もう二度とこの手を離さない。そういう気持ちを込めてギュッと握ると、悠ちゃんもそれ以上の力で握り返してくれた。
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