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第115話 疑心暗鬼

電車に揺られている間に、昨日のことを、悠ちゃんから詳しく聞いた。 悠ちゃんは、帽子が中々見つからなくて、少し遠くまで行ってやっと見つけた。急いで僕が待つ場所へ戻ると僕の姿がなく、慌てて捜した。近辺を走り回ったけど僕がいなくて、僕が勝手に動くなんて考えられないから、悠ちゃんの頭に、会った時から怪しいと思っていた正司さんの顔が浮かんだそうだ。 悠ちゃんは、急いで別荘に戻り、涼さんに「玲が連れ去られたっ!警察を呼んでくれっ」と叫んで、またすぐ僕を捜しに出た。 森の中を必死に走り回って捜していたら、僕の声が聞こえてきたから、その声を頼りに走って行くと、湖に突き当たった。すると、すぐに僕が森から飛び出て来て、ホッとしたのも束の間、僕が突然湖に飛び込んだから驚いたと、言っていた。 涼さんと拓真は、悠ちゃんが別荘を出た後に、警察に連絡しながら追いかけて来たそうだ。だから、湖に飛び込んだ僕が湖から出て来るのを待っていた正司さんを、すぐに取り押さえることが出来た。 「そうだったんだ…」と、僕は深く息を吐く。 皆んなが僕を助けてくれたんだ。次に二人に会ったら、ちゃんとお礼を言わなきゃ…と、一人頷いた。 マンションに帰る前に、大量の食料品を買った。 旅行の大きな荷物もあったから、二人で重い重いと言いながら玄関になだれ込んだ。 「はぁっ、重かった…。なんでこんなにいっぱい買ったの?」 「玲と二人きりで部屋にこもるため。これだけあれば、何日も買い物に行かなくてもいいだろ?」 「…ずっと二人?」 「ああ、ずっと二人だけだ」 荷物を玄関の床に置いたまま、僕は悠ちゃんに抱きついた。 悠ちゃんの胸に顔を押し当てて、くぐもった声を出す。 「ふふ…嬉しい」 「俺も嬉しい。玲、好きだよ」 悠ちゃんが僕の髪を梳きながら、優しい声を出した。

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