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第128話 疑心暗鬼

朝、咳が止まらなくて目が覚めた。咳をすると胸も痛い。全身が燃えるように熱く、吐く息も熱い。 ゴホッゴホッと咳を繰り返していると、先に起きていた悠ちゃんが、慌てて部屋に飛び込んできた。 「玲っ。大丈夫かっ?大丈夫じゃないよな…。朝起きて、おまえの身体が熱いから驚いた。ほら…新しい氷枕と冷却シート。あと、涼に頼んで、病院で処方する薬、持って来てもらうから」 「ゴホッ、ケホッ…、涼、さんに…?」 「ああ、涼の父親は医者だ。おまえの症状を言って、もらえるように頼んでみる。少し、待っててくれな?」 「うん…ゴホッ。でも、いつもの薬飲んで、ケホッ、寝てたら大丈夫…だよ…」 「ダメだ。おまえ、どんどん悪くなってる…。ごめんな、俺が無茶したから」 「謝っちゃ…やだ。僕が、お願いしたから…。ケホッ。それに、熱上がっちゃったけど…幸せな気持ちだから…いいの」 「玲…」 僕をギュッと抱きしめて、悠ちゃんは部屋を出た。 ドアのすぐ外で、涼さんと電話で話す声が聞こえる。 「あっ、涼!悪い…頼みがあるんだけど…」 「親父さんに頼んでさ、薬出してもらえないかな」 「え?ああ、出かけてたんだよ…。そんなことよりも、玲が昨日から熱が下がんなくて…。咳もひどいんだ。市販薬じゃ全然ダメだ。治らない」 「は?病院?嫌だ、連れて行かない。玲を、誰の目にも触れさせたくねぇし。また、連れ去られたらどうすんだよっ」 「はぁ…悪い。とにかく頼むよ。よく効く薬をもらって来てくれ。なるべく早く…。ああ、じゃあな」 話し声が止んで、悠ちゃんが部屋に入って来る。 目を閉じた僕の頰に手を当てて、唇を押し当てる。冷たい水が喉に流れ込んできて、コクリと飲み込んで目を開けた。 「はぁ…もっと」 「ん…」 何度か口移しで水を飲ませてもらって、大きく息を吐く。 悠ちゃんが、ベッドに上がって僕の上に被さり、肩に顔を埋めて切ない声を出した。 「玲…、俺に移せよ。俺が、代わってやりたい…」 「ダメだよ…。悠ちゃんが熱を出したら、僕だって代わりたい…。ケホッ…、悠ちゃん、ごめんね。心配かけてばかりで…。ごめんね」 「バカっ、謝んなっ。もうすぐ涼が薬を持って来てくれる。そしたら、良くなるよ。元気になったら二人で出かけようか?どこに行きたいか、考えておけよ?」 「…ホント?行きたいっ。悠ちゃんと一緒ならどこだって嬉しい…。あ、でも僕、パンダが見たいなぁ…。いい…?」 「いいぜ。ちっちゃい頃、見に行ったことあるよな。ふっ…、あの時、指を指して興奮するおまえばっか見てた。すっげー可愛かった」 「ふ…ふふ、パンダの方が可愛いに決まってるのに…。今度は、パンダ見てよ」 「おまえより可愛い存在なんてねーよ…」 「悠ちゃん…ゴホッ、コホッ…」 悠ちゃんが、僕の隣に寝転んで肩を抱き寄せる。そして、繰り返し、優しく僕の背中を撫でた。

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