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第142話 未来永劫
ベンチに座るその人は、空を見上げていた顔をゆっくりと下ろして僕を見た。その瞬間、周りの時間が止まる。
僕達は、お互いの目の中に吸い込まれてしまうんじゃないかと思うほど、強く見つめ合った。
見つめ合いながら、僕はポロポロと涙を流す。
僕に優しく微笑んだ彼が、立ち上がって口を開いた。
「…玲、迎えに来たぞ」
「ゆ…っ、悠ちゃんっ!」
僕は、両手を広げた悠ちゃんの腕の中に飛び込んだ。
あの頃よりも逞しくなった身体。背も少し高くなっている。でも、頰を擦り寄せる胸から香るのは、懐かしい悠ちゃんの匂いだ。
「悠ちゃんっ、あ、会いたかった…っ。僕、ちゃんと頑張ったよ。泣き虫も直して、強く…なったよ」
「そうか…偉かったな、玲。俺も頑張ったよ。おまえのことを思うと、どんなことだって乗り越えられた。玲…、顔を見せて…」
少し潤んだ瞳の悠ちゃんが、僕の頰を両手で包んで上を向かせた。
悠ちゃんは、あの頃よりも、色気のある大人の顔になっていた。僕がぼんやりと見つめていると、悠ちゃんの顔が近づいて、そっと唇にキスをする。
「綺麗になったな…。何年経っても、おまえは若く愛らしいのな。この九年、離れていても、おまえを愛しく思う気持ちは薄れることなく増していた。今、やっとおまえに触れて、嬉しくて堪らない…。玲、愛してる…」
「悠ちゃんも…カッコよくなったね。僕も、悠ちゃんへの気持ちは何一つ変わってないよ…。僕も、愛してる」
悠ちゃんが、僕の背中に両手を回して額をコツンと合わせる。お互いの鼻を触れ合わせて、悠ちゃんが囁いた。
「俺さ、玲が住んでる所の隣のマンション買ったんだ。涼に聞いて、玲がどうしてるかを知っていたから。今日の夜、玲の家に行って、一緒に住もうって話そうと思ってたんだけど…。玲の方から会いに来てくれた。ありがとな、玲」
「涼さん…知ってたんだ…。だから僕に呼びに行けって言ったんだね。ふふ、あとでお礼言わなきゃ。悠ちゃん、僕…また、一緒に住んでもいいの?」
「当たり前だ。その為に、頑張ってマンションを買ったんだからな。俺たちの家だ」
「嬉しいっ…。ねぇ悠ちゃん、もうずっと一緒?二度と離れない?」
「ああ、俺はもう、死んでもおまえを離さない」
「僕も、一生離れないから…っ」
ギュッと強くしがみついて、大きく息を吸い込む。
ーーああ…悠ちゃんの匂いだ。僕の大好きな人の大好きな匂い。大好きな温もり。今日からずっと、傍にいられるなんて、夢みたいでとても幸せ…。
僕は「今日くらい泣き虫でもいいよね…」と呟いて、長い時間、嬉し涙を流し続けた。
ー終。
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