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現在の日常~宗司の高校生活編~

月曜日の朝。 また今日から一週間が始まる。 学校に行く事自体は嫌いじゃない。 というより、楽しいから好きだ。 もちろん、Blue Roseのメンバーといる時程ではないが、それなりに楽しい。 ………が、 月曜日の朝だけは、ちょっと、………いや、かなりウザい出来事が待ち受けている。 それを思い出して、宗司のテンションは早々にガタ落ちした。 「宗司くーん!」 宗司が教室に入った途端、クラスメイトの一人が物凄い勢いで走り寄ってきた。 豆柴のようにハツラツとしていて元気が良いこの少年、龍琥(りゅうこ)。いつも思うが凄い名字だ。 本人自体は良い奴で、明るくて面白く、クラスのムードメーカーでもある。 だが、宗司はこの少年が苦手だった。 少年が苦手、というより、月曜日の朝限定のこの行動が苦手なのだ。 「神は一緒じゃねぇから知らないぞ」 溜息混じりに先手を打つ。 それでも敵はいつもの如くしぶとい。 「そうなのか、残念…。でも!この土日は一緒だったんだろ?神君はどんな格好してた?何してたの?誰と遊んだ?」 矢継ぎ早の質問に、スルー技術が発達している宗司でさえも辟易する。 二年の時に同じクラスになってからというもの、月曜日の朝はいつもこれだ。 三年の現在、実はこれ嫌がらせなんじゃないのか?と疑心暗鬼になったとしてもおかしくはないだろう。 だが、龍琥本人は嫌がらせのつもりは無いらしく、「だって俺、神君のファンだから!」と周囲に豪語してはばからない。 神の全てを知りたいらしい。 平日は学校で姿を見られるからいいらしいが、学校が休みの土日に神が何をしているのか気になって仕方がないと言う。 誰がどう見ても、ストーカー予備軍間違いなし。 「あのなぁ…、そんなに知りたいなら神に直接聞けよ」 「聞いたけど無視された!」 「………聞いたのかよ…」 宗司は、自分の頬がゲッソリと痩せこけたような気がした。 …冗談で言ったのに…。 ある意味、勇気がある。 三年にもなれば、神がどんな人間なのか校内のほとんどの人間がわかっている。 それはもちろん表面上のもので内面までは知られていないが、とにかく神が人を寄せ付けない事はみんな存分に知っている。 あの端正な顔立ちに惹かれる者は多いけれど、鋭い眼差しと孤高の狼のようなオーラが他人を寄せ付けず、恐れ多いしなんだか怖いし…で、遠くから見るだけが精一杯というような高嶺の華状態となっていた。 それなのに、コイツだけはいつまでたってもこれだ。 へこたれるとか、諦めるとかの言葉は、龍琥の頭の辞書には存在していないらしい。 机に頬杖を着いた宗司は、ちょっとした出来心で、真横に立つ相手に爆弾を投下してみた。 「あのさぁ、龍。お前がいくら神の事を好きで追っかけても、アイツは絶対にお前を自分の横に置く事はしねぇぞ」 「なんで?どうして?そんなのわかんないじゃん!俺の情熱はいつか絶対に伝わるはずだって!いつか神君も俺の良さに気が付く時が絶対に来る!」 「もうアイツは自分の横に立つ相手を決めてる」 「………………」 おー、スゲェ…。ムンクの”叫び”を実際にやる奴初めて見たわ。 龍琥の顔が絶望に染まっている。 宗司はそれをニヤニヤしながら見つめた。 現実を知れば、いくらコイツだって諦めるだろ。 …なーんて思っていた宗司は、次の瞬間、自分の認識が甘かった事を思い知った。 「…神君は…、」 「ん?」 「神君はそいつに騙されてるんだーーーーッ!」 「…………は?」 「俺が目を覚まさせなきゃ!神君が悪の手の内に落ちる前に!!」 「…………」 神、ゴメン。余計火に油注いじゃったわ俺。 那智、ゴメン。お前、悪の存在になっちゃったよ。 「…ハハハハハ…」 朝の教室には、宗司の引き攣った空笑いと龍琥の熱い血潮に燃える雄叫びが、いつまでも響き渡っていた。 *―――――――――* ☆おーわり☆ ここまでお付き合い下さいまして本当にありがとうございました!

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