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その24:本当の恋人になりましょう
「さて。これでもう、俺とはじめくんの間に隠し事はないわけだ」
泣き止んだらしい苑が、満面の笑みを浮かべている。その笑みを見て、はじめは悪寒を感じた。こう、背中にぞわぞわっと来る感じ。
何か、嫌な予感がする。
さっきまで、少し感動的な雰囲気が2人を包んでいたというのに。苑の笑みのお陰で、嫌な雰囲気が漂っている。これは逃げた方がいい。はじめの本能がそう告げたので、そろっと後ろに下がってみた。
しかし、それを許さないと言うように苑に抱き締められる。逃げるためにもがいてみたが、どうやら離す気はないらしい。
「あの、苑さん?」
「何?はじめくん、そんなに怯えた顔してどうしたの?」
「いや、あんたの笑顔が怖いんだよ!」
はじめがそう叫ぶと、一瞬キョトンとしたかと思えば、さっき以上ににっこりと苑は笑った。あ、これは無理だ。苑の笑顔を見てはじめがそう思った瞬間、押し倒されていた。
急な出来事にはじめがキョトンとしていると、押し倒した張本人である苑が耳元で囁いてきた。
「はじめくん。さっき、俺のこと好きって言ったよね」
「ひっ!い、いいましたけ、ど、んっ」
「だったら、俺と本当の恋人になってくれるんだよね」
「んぁっ、ちょ、苑さ、ひぅ」
耳元で囁いてくるので、はじめはくすぐったそうに身をよじる。やめてと言ってみても、苑が止めることはなく。気づけば、耳元で囁かれ続けただけなのにはじめの身体は、もうクテンクテンにとろけていた。
気持ち良さそうに短く息を吐き続けるはじめを見て、苑は興奮した。何せ、はじめがやっと自分を本気で好きになってくれたのだ。
それがもう嬉しすぎて、早くはじめとどうにかなりたくての今この状態である。
「かわいい、はじめくん」
このまま、最後までしてしまおう。
夢に見ていた、はじめとの幸せな時間を今過ごそう!!そう決めて、苑がとろけた状態で見ているはじめに深いキスを仕掛けようと顔を近づけた時だ。
「組長!すいません、お話が、」
何も知らない組員が、そう言って入ってきたのだ。もちろん、気まずくなる3人。苑の雰囲気を感じ取り組員がそそくさと逃げ出した。そして、一気に羞恥心が上がったはじめは、苑の頬を思いっきり叩いた。
「なにも、本気で叩くことないじゃないかはじめくん」
「叩きますよ!俺の了承もなしに、先に進めようとして!」
「だって、はじめくんとやっとちゃんとした恋人になれたんだよ。これから好きな時にキスもできるし、盗撮もできるようになったんだから」
「盗撮は、付き合っても許しませんから」
はじめの言葉に、本気で苑はショックを受けた。何で盗撮がダメなんだと本気で言っている苑に呆れながらもはじめは笑うと、思いっきり襟元を引っ張った。
そして、その勢いで近づいてきた苑の唇に自分のそれを合わせる。
「これからたっぷりと時間はありますから、ゆっくりと進めましょう。苑さん」
幸せそうな笑みを浮かべながらそう言うはじめ。すると、苑も、幸せそうな笑みを浮かべながら。
「しょうがないな。でも、あんまり待たせられると俺狼になっちゃうからね」
そう言って、はじめのおでこにキスを落とした。
END
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