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その23:抱き締めてあげましょう

秋島組からの帰り、苑とはじめの間に会話は1つもなかった。しかし、繋がれた手は1度も離れることはなく、互いの存在をただ確かめていた。 ゆっくりと時間をかけて帰りついて。苑は、はじめの手を引いて屋敷に入る。はじめは、黙って苑についていった。どこに向かうのかと思えば、苑の部屋で。部屋に入ったとたん、キツく苑に抱き締められた。 もう離さない。そう言われているようで。はじめは、瞳から溢れそうになった涙をこらえた。泣きたくない。久しぶりに会った苑に、泣いている姿など見せたくないのだ。 「っ、はじめくん」 「はい」 「ごめん。お願いだから、もう俺から離れていかないで」 そう言った苑の声が震えていた。パッとはじめが顔をあげれば、ホロホロと苑の瞳から涙が溢れていた。苑の涙を見て、はじめはどれだけ苑を傷つけたんだろうと思った。強いように見えて、こうして涙を流す苑を、一体自分はどれだけ傷つけたんだと。 泣かないと決めていたのに、苑の涙を見てしまって自分も止まらなくなって。 はじめも涙を流しながら、そばにいる。そばにいるからと呟いた。 「――――――静夏さんは、俺の兄のような存在だ。この世界に入ってから、1番可愛がってくれていた人だ」 「そうなんだ、」 「その人がいつの間にか消えていた。誰にも、何も言わず。俺も必死で探していた。だからあの時、静夏さんの姿を見つけて止まらなくなったんだ」 兄として慕っていた人が、いつの間にか消えて。その時の苑の気持ちを思うと、はじめは胸が締め付けられた。きっと苑は寂しかったんだ。ずっと探して、探し続けて。あの時、やっと見つけられて。苑は、どれだけ嬉しかったんだろう。 「嬉しかった。やっと、静夏さんを見つけられて。ちゃんと話せて。でも、そのせいではじめくんが離れていった」 「…………ごめんなさい。怖かったんです、苑さんの口から静夏さんのことを聞くのが」 「ん、」 「俺の中で、いつの間にかあなたが特別になってて。好きで、大好きで。だから、俺以外にも特別がいるって事実を信じたくなくて、」 それ以上は言葉が続かなくて。 静かに話を聞いてくれている苑を抱き締めた。自分ももう離さないというように、ただ目の前の愛しい存在を抱き締める。 「特別だよ。はじめくん以上に特別な存在なんて、俺にはいない」 そう言って、苑ははじめの背中に腕を回した。

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