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その22:その手を取りましょう
はじめが秋島組に身を寄せてから、気づけば今日で1ヶ月になる。その間、はじめは苑と1度も顔を合わせていない。
何度か清嗣が会いに来てくれたことはあったが、その度に苑が来ていない事実に少しだけ寂しさを感じていた。
最近になって、やっとはじめの中に余裕が出来た。苑の話を、静夏とのことを聞けるだけの余裕が。
はじめも気づけたのだ。自分が、苑を好きという事実が変わらないのも、静夏が苑にとって大切な人物だというのも。そして、自分も苑にとって大切な人物だということも。
「信之助さん。これって、俺から迎えを呼んでも大丈夫なんですかね。苑さんに、迎えに来いって」
「いいんじゃない?ね、佐久良。別にいいよね、はじめくんから連絡しても」
「いいと思いますよ」
信之助や佐久良に背中を押され、自分のスマホの連絡先を開き、苑の番号に電話をかける。
出てくれるだろうか。もしかしたら、待たせ過ぎて飽きられているかもしれない。そんな不安があったが、2コール目で苑は出た。
『っ、もしもし』
「……………苑さん」
『っ、なに?』
そう言った苑の声が、ほんの少しだけ震えていたことにはじめは気づく。もしかしたら、苑も怖いのかもしれない。このまま、自分に別れを切り出されるんじゃないかと。
そう思うと、はじめの中から一気に不安が消し飛んだ。
「迎え、来てくれませんか?俺、あなたの元に帰りたいです」
はじめの言葉に、苑が息を飲むのが分かった。しばらく無言が続き、そして「すぐに行く」と小さな声で帰ってきた。
「迎え、すぐに来てくれるみたいです」
電話を切ってはじめは、心配そうにこちらを見ていた信之助にそう言って笑いかけた。
30分後。見慣れた車が、秋島組の屋敷の目の前に停まる。その車から降りてきたのは、ずっと待ち望んでいた苑だった。
「はじめくん、」
少しやつれたように見える苑が、はじめの名前を呼んで手を伸ばしてきた。その手を、はじめは躊躇うことなく取った。
自分よりも随分と大きな手が、カタカタと微かに震えている。それが少し可愛く思えて。
「帰りましょう、苑さん」
自然とこぼれる笑み。
ふわりと幸せそうに笑ったはじめを見て、苑も安心したように表情を緩めた。
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