6 / 6
インテリヤクザと甘い代償⑥
「冗談は終わりなんだよ」
低く呻くように訴える。田辺の眉がぴくりと動いた。
「冗談なんかじゃないから、心配はいらないよ。あんたを、誰かに渡すつもりはないから」
「意味がわかんないんだよ!」
「そこが甘いんだよな。ヤクザ相手にして、ヤクザになりきれないのは……致命傷だろ」
さらに腕をねじられる。大輔は小さく呻き声を漏らした。
「マル暴の新人を手籠めにしてでも子飼いにしたいヤツはさ、腐るほどいるんだよ。あんたのとこの優しい先輩が、心配して世話焼いてただろ? なのに、あんたはそれをイチイチ跳ね飛ばしてる。危なっかしいんだよ」
配属された頃、教育係だった相棒の先輩刑事のことだ。その男は腹が立つほど口うるさかった。
服装から髪型、目つきから口調、声色まで注意された。それから、捜査方法も。
うっとうしいと思っていたあれこれの意味がいまさらわかる。
「おまえに、関係ないだろ」
「ないねぇ」
田辺の笑い声が降ってくる。
押さえ込まれたまま、大輔はくちびるを噛んだ。
「逃げられないよ、あんた」
「変態……っ」
「まぁまぁ。俺はあんたをシャブで漬け込もうとも思ってないから。本当に、マシなんだよ? 別に、俺の犬になって足を舐めろとも言わないし」
「……」
そんなことを言われるなんて、考えるだけでおぞましい。
「抵抗しないって約束だろ? かわいがってやるから」
「勝手なこと言うな! どけよ! バカ、ヘンタイ、強姦魔!」
「強姦じゃないだろ、ちゃんと取引したのになぁ」
田辺がのんきにぼやく。
「どけっ」
大輔は手足をばたつかせて暴れた。丁寧に撫でつけたオールバックが乱れて、髪が額にかかる。
こんなところで、インテリヤクザと関係を持っている場合じゃない。
でも。なのに。
「あぁ……、言いたくなかったのにな」
甘い声で田辺が言う。笑みを滲ませた、どこか楽しげな声。
「この前の、うちのマンションでの一件。きちんと映像で残してあるよ」
びくんと、大輔の身体がこわばる。手のひらで胸を押し戻す体勢のまま、相手を見上げた。
薄闇の中で、田辺がその手首を握る。
「俺に突っ込まれて、デカのあんたがヒィヒィ言ってるビデオ。喜ぶやつも多いと思うな。あんたの部署のヤツとか、あんたの」
力の抜けた大輔の人差し指を吸い上げて、
「かわいい奥さんだとか」
田辺はあくどい表情でいやらしく微笑んだ。
「死ねよ、おまえ。殺してやるから」
うなり声は負け惜しみでしかない。
くちびるを噛んで、大輔は肩を枕へと戻した。首筋を田辺に舐められる。
「約束通り気持ちよくしてやるから。……いい子にできたらね」
手のひらが大輔の髪を乱す。ヘアスタイルが崩れて前髪ができると、大輔は普段より幼い印象になる。
「俺が、死にたい……」
つぶやきながら、両腕で顔を覆い隠す。
舐められて勃起したものは、まだ萎えていない。
中途半端に放っておかれて力を緩めてはいるが、まだ愛撫を期待して目覚めている。
田辺の手が根元から包み込むように掴んだ。
人の熱が伝わり、大輔は乾いて仕方がないくちびるを舌先で舐める。今度こそ抵抗はできない。
もしかしたら、と思っていた。あの日からずっと、考えないようにしてきたことだ。田辺が保険をかけていないなんて考えられなかった。
「……っあ……」
数回しごかれただけで、熱はすぐに戻る。
田辺の息がかかり、弾みそうになる腰をこらえるだけで精一杯になった。
「ふ、……ん……」
先端のやわらかな肉を軽く噛まれて息が漏れた。
「出しておこうか、三宅さん」
田辺が笑う。
「いや、だ……」
「そんなこと言っても、ね。このままじゃ我慢できないんじゃないの?」
「うるさっ、い」
「こんなに、ぬるぬるしてるし」
「……っう、ん」
「こうされると、気持ちいいだろ」
「やめっ…、出るっ」
思わず田辺の髪を掴んだ。腰が跳ねる。
声を詰まらせて、呻いた。背中をのけぞらせ、大輔はせつなくこみあげる熱を放つ。
「たっぷりだ」
整った顔立ちに、意地の悪い笑顔を貼りつけて、田辺が濡れた手を開いて見せた。
べっとりとついたザーメンを拭き取るためにベッドを下り、サイドテーブルのティッシュを引き抜く。
「……ぁ、はぁっ……っ」
大輔は息を乱した。顔を覆った腕の下から目で追うと、田辺は全裸をものともせず部屋を横切っていく。
煙草に火をつけて、壁にかかったイラストを見上げた。
背中に薄くついた筋肉が動く。火のついた煙草を指に挟んだまま田辺が髪を掻き上げる。
薄明かりの中で、シルエットがイラストの上に伸びた。
「一度出したら、あきらめがついただろう」
振り返らずに田辺が言う。大輔は答えなかった。
身体の芯がまだジンジンと痺れている。出すことだけを目的にすることがあっても、出したくないと思うことなんて今までなかった。
「さぁ、やろうか。ベイビー」
にこりともせずに田辺が近づいてくる。
いかがでしたでしょうか?この続きは
【刑事に甘やかしの邪恋】
作:高月紅葉【こうづきもみじ】
イラスト:小山田あみ【おやまだあみ】
ラルーナ文庫より2018年10月20日 全国書店様、ネット書店様にて発売予定です!
https:/www.amazon.co.jp/dp/4879199699
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!