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インテリヤクザと甘い代償⑥

「冗談は終わりなんだよ」  低く呻くように訴える。田辺の眉がぴくりと動いた。 「冗談なんかじゃないから、心配はいらないよ。あんたを、誰かに渡すつもりはないから」 「意味がわかんないんだよ!」 「そこが甘いんだよな。ヤクザ相手にして、ヤクザになりきれないのは……致命傷だろ」  さらに腕をねじられる。大輔は小さく呻き声を漏らした。 「マル暴の新人を手籠めにしてでも子飼いにしたいヤツはさ、腐るほどいるんだよ。あんたのとこの優しい先輩が、心配して世話焼いてただろ? なのに、あんたはそれをイチイチ跳ね飛ばしてる。危なっかしいんだよ」  配属された頃、教育係だった相棒の先輩刑事のことだ。その男は腹が立つほど口うるさかった。  服装から髪型、目つきから口調、声色まで注意された。それから、捜査方法も。  うっとうしいと思っていたあれこれの意味がいまさらわかる。 「おまえに、関係ないだろ」 「ないねぇ」  田辺の笑い声が降ってくる。  押さえ込まれたまま、大輔はくちびるを噛んだ。 「逃げられないよ、あんた」 「変態……っ」 「まぁまぁ。俺はあんたをシャブで漬け込もうとも思ってないから。本当に、マシなんだよ? 別に、俺の犬になって足を舐めろとも言わないし」 「……」  そんなことを言われるなんて、考えるだけでおぞましい。 「抵抗しないって約束だろ? かわいがってやるから」 「勝手なこと言うな! どけよ! バカ、ヘンタイ、強姦魔!」 「強姦じゃないだろ、ちゃんと取引したのになぁ」  田辺がのんきにぼやく。 「どけっ」  大輔は手足をばたつかせて暴れた。丁寧に撫でつけたオールバックが乱れて、髪が額にかかる。  こんなところで、インテリヤクザと関係を持っている場合じゃない。  でも。なのに。 「あぁ……、言いたくなかったのにな」  甘い声で田辺が言う。笑みを滲ませた、どこか楽しげな声。 「この前の、うちのマンションでの一件。きちんと映像で残してあるよ」  びくんと、大輔の身体がこわばる。手のひらで胸を押し戻す体勢のまま、相手を見上げた。  薄闇の中で、田辺がその手首を握る。 「俺に突っ込まれて、デカのあんたがヒィヒィ言ってるビデオ。喜ぶやつも多いと思うな。あんたの部署のヤツとか、あんたの」  力の抜けた大輔の人差し指を吸い上げて、 「かわいい奥さんだとか」  田辺はあくどい表情でいやらしく微笑んだ。 「死ねよ、おまえ。殺してやるから」  うなり声は負け惜しみでしかない。  くちびるを噛んで、大輔は肩を枕へと戻した。首筋を田辺に舐められる。 「約束通り気持ちよくしてやるから。……いい子にできたらね」  手のひらが大輔の髪を乱す。ヘアスタイルが崩れて前髪ができると、大輔は普段より幼い印象になる。 「俺が、死にたい……」  つぶやきながら、両腕で顔を覆い隠す。  舐められて勃起したものは、まだ萎えていない。  中途半端に放っておかれて力を緩めてはいるが、まだ愛撫を期待して目覚めている。  田辺の手が根元から包み込むように掴んだ。  人の熱が伝わり、大輔は乾いて仕方がないくちびるを舌先で舐める。今度こそ抵抗はできない。  もしかしたら、と思っていた。あの日からずっと、考えないようにしてきたことだ。田辺が保険をかけていないなんて考えられなかった。 「……っあ……」  数回しごかれただけで、熱はすぐに戻る。  田辺の息がかかり、弾みそうになる腰をこらえるだけで精一杯になった。 「ふ、……ん……」  先端のやわらかな肉を軽く噛まれて息が漏れた。 「出しておこうか、三宅さん」  田辺が笑う。 「いや、だ……」 「そんなこと言っても、ね。このままじゃ我慢できないんじゃないの?」 「うるさっ、い」 「こんなに、ぬるぬるしてるし」 「……っう、ん」 「こうされると、気持ちいいだろ」 「やめっ…、出るっ」  思わず田辺の髪を掴んだ。腰が跳ねる。  声を詰まらせて、呻いた。背中をのけぞらせ、大輔はせつなくこみあげる熱を放つ。 「たっぷりだ」  整った顔立ちに、意地の悪い笑顔を貼りつけて、田辺が濡れた手を開いて見せた。  べっとりとついたザーメンを拭き取るためにベッドを下り、サイドテーブルのティッシュを引き抜く。 「……ぁ、はぁっ……っ」  大輔は息を乱した。顔を覆った腕の下から目で追うと、田辺は全裸をものともせず部屋を横切っていく。  煙草に火をつけて、壁にかかったイラストを見上げた。  背中に薄くついた筋肉が動く。火のついた煙草を指に挟んだまま田辺が髪を掻き上げる。  薄明かりの中で、シルエットがイラストの上に伸びた。 「一度出したら、あきらめがついただろう」  振り返らずに田辺が言う。大輔は答えなかった。  身体の芯がまだジンジンと痺れている。出すことだけを目的にすることがあっても、出したくないと思うことなんて今までなかった。 「さぁ、やろうか。ベイビー」  にこりともせずに田辺が近づいてくる。 いかがでしたでしょうか?この続きは 【刑事に甘やかしの邪恋】 作:高月紅葉【こうづきもみじ】 イラスト:小山田あみ【おやまだあみ】 ラルーナ文庫より2018年10月20日 全国書店様、ネット書店様にて発売予定です! https:/www.amazon.co.jp/dp/4879199699

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