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インテリヤクザと甘い代償⑤

「ひとつ。逃げない」 「オッケ」 「ふたつ。抵抗しない」 「マジかよ」 「みっつ。やる前にシャワーを浴びない」 「へ、変態……」 「あんたにはしゃぶらせないんだから、別に困ることはないだろ」 「まぁ……、そうか。じゃあ、それで」  大輔は軽く言って、シャツを脱ぎ、肌着も脱ぎ捨てた。田辺の軽さにつられて、この交換条件も悪くないように思えてくる。  痛くなくて気持ちがいいなら、金を払わないで済む性感マッサージだとでも思っていればいい。  後ろに突っ込まれることに関してだって、男の性器だと思わなければ生々しさも半減だ。 「振り切れると、早いな」  バカにしたように笑いながら、田辺も服を脱ぐ。そして、 「電気は消す?」  カーテンを引きながら言った。 「当たり前だろ。俺は、女とやるときも消す派だ」  大輔ははっきり答える。スラックスも下着も脱いで、隣のベッドのカバーを乱暴に剥いだ。  部屋の明かりが落ちる。出入り口は点け残したのか、真っ暗闇にはならなかった。 「奥さんとはしてないんだな」  素っ裸になった田辺にのしかかられて、大輔はそっけなくそっぽを向いた。 「そんな暇あるか」 「マル暴は離婚率高いからな」 「そうそう、おまえらヤクザのせいでな」  目を閉じて、身体の力を抜く。田辺の指が、首筋を撫でる。身体が大きく震えたのを、大輔は部屋の空調のせいだと思う。  感じたわけじゃないと訂正したかったが、それぐらいのことがわからない田辺でもないだろう。口にするだけ墓穴を掘る。 「女に、飽きたなんて、あるのかよ」 「あんたが気になっただけだ」  田辺の答えを、大輔は鼻で笑った。 「俺に惚れたか」  嘲るように笑ったが、いざ合意のセックスをするとなって、黙っていられないのは大輔の方だ。  恥ずかしさを持て余していると、男の指に鎖骨をなぞられた。  胸筋に沿ってくだり、乳首を弾かれる。 「うっ……」 「感じる?」  田辺の息が肌に当たる。 「くすぐったいんだよ」  顔をしかめて身をよじった。  田辺はしつこく責めたりはしない。だが、手のひらはすぐに腰から下へと伸び、大輔のそれを掴んだ。 「反応してないんだな」 「がっかりしただろ」  からかいながらベッドをずり上がり、壁に肩を預けて上半身を起こす。 「別に。これからだ」 「あっそ」  そっけなく答えて、大輔は片膝を立てた。  田辺が眼鏡をはずし、サイドテーブルに置く。片手は大輔を握ったまま、こねくり回している。柔らかな肉は変化を見せない。 「ダメだな」  自分の股間を見下ろした大輔は、ごつごつした男の手に握られて萎縮しきっているモノに同情する。たぶん、エロいことを想像しても立たないだろう。  握っているのが男では、どうにもならない。  なのに田辺はにやりと笑う。そしてそのまま、何も言わずに潜り込んだ。  息がへその辺りにかかり、大輔はまた身じろぐ。  生温かい息に弱いのは昔からだ。すぐに鳥肌が立つ。だから、身体を硬くして耐えた。ぞわぞわと広がる嫌悪を奥歯で噛み殺す。そのとき、おもむろに田辺のくちびるが押し当たった。  ハッと息を呑んだ大輔の見ている前で、先端がくちびるに甘噛みされる。そして全体をくわえられた。生温かい唾液の濡れた感触は、久しぶりすぎて新鮮だ。  大輔は天井を仰いで、腕をまぶたに押し当てた。  舌が絡みつき、皮を吸われる。  萎えていた柔らかな肉が芯を持ち、朝の生理現象でも、疲れすぎているのでもない、外的な刺激による勃起が始まっていく。 「……男のチンコ舐めて、嬉しそうだな。田辺。おい、変態」  湧き起こる感覚を遠ざけようと口にした言葉を、田辺は顔を伏せたままで笑い飛ばした。 「あんたは、本当にかわいいよな。惚れてないけど、かわいがりたくなる」 「気持ち悪いこと、言うな。萎える……」 「そうかな? もうビンビンに勃起してる」 「嘘つけ」  顔を隠したままで、息をつく。  そうして気を紛らせないと、田辺が指摘する自分の反応を肯定するようでたまらない。  感じているのは嘘じゃなかった。  この前のような、気がつけば挿入されている性急さではなく、快楽を引きずり出す丁寧な愛撫は、性的に放置されていた大輔の身体を翻弄する。  手でしごかれているのとは違い、オーラルセックスには男も女もなかった。それどころか、少し乱暴なぐらいの田辺の動きは、男の悦いところをぐいぐいと責めてくる。  同じ男だからわかる的確さだ。 「……んっ」  裏筋を舐め上げられ、そのまま鈴口に舌先を突っ込まれる。大輔から思わず声が漏れた。田辺がほくそ笑む。 「知らないんだな。自分がどう見えてるか。向こう見ずで、危なっかしくて、俺が相手しなきゃヤクザに骨までしゃぶられてるとこだよ」  根元から指でこすり上げられた。勃起した後になっては、それが男の指であることはなんの妨げにもならない。いっそ、しっかりとした肉の厚さが快感を煽るぐらいだ。  田辺の息が先端にかかり、大輔の腰が無意識にわななく。 「ちょっ……」  もうシャレにならなかった。  男に握られ、舐めしゃぶられ、勃起している。  自覚した瞬間、次に起こることを思い出した。身体は自然と硬くなり、水を浴びせられたように現実に引き戻される。 「やっぱり、ムリだ!」  握られるのはかまわない。舐められるのも、しゃぶられるのもいい。ただ、この後には、あれが待っている。  普通に考えただけで苦痛でしかない行為だ。もう一度、あんな太いものを入れられたら、大変なことになってしまう。  大輔は身をよじって田辺から逃れた。 「三宅さん、いいんですか。これぐらいでは、ネタをあげられませんけど」 「いいよ」  ベッドの端に逃げながら、答える。  そんなことはもうどうでもいい。自分の中の男のプライドを踏みにじってまで固執するようなものでもないはずだ。  いまさら真実に気がついて、大輔はベッドから立ち上がった。その腕を、田辺が力任せに引いた。 「離せよ」  傾ぐ身体を両足で踏ん張ってこらえ、肩越しに睨んだ。薄闇の中で、眼鏡をはずした田辺の瞳は昏く光って見えた。 「できないね」  ベッドの上で膝立ちになり、掴んだ腕をひねるようにしながら大輔を引き戻す。  今度は踏ん張りきれない。引きずり戻され、みっともなくベッドへ倒れ込むと、肩へ田辺の膝がめり込んだ。ぐっと体重をかけられる。  鈍い痛みが走り、大輔は顔をしかめながら、シーツを掴んだ。

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