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インテリヤクザと甘い代償④

抗争はない。そんなおおげさなことはうちだってやらないだろ。バカじゃないんだから」 「確かなんだろうな」 「今まで嘘を売ったことはないけど?」 「わかった。なら、いい。気を悪くするなよ」  大輔は言いながら立ち上がった。  ポケットから折りたたんだ札を出して、ベッドへ投げ置く。 「部屋代の足しにしてくれ」 「安いねぇ、三宅さん」  にやけた声をかけられて、足早に部屋を出ようとしていた大輔は振り返りそうになった。ドアノブに手を置いて動きを止める。その瞬間を田辺は見逃さない。  安いのは、大輔が想像したこのホテルの部屋代か。それとも、情報料のことか。 「抗争は、ない」  田辺の声が近づいてくる。 「どういうことだ」  撒き餌だと、振り返ったと同時に気がついた。 「抗争があるかないかを聞くだけでいいわけ? あんたのバックバージン、本当に安いんだな」  ビールを持ったまま、田辺はまっすぐに歩いてきた。狭い部屋だ。すぐに大輔は追い詰められた。 「安いわりには、具合のいい穴だったけど」  部屋を出るタイミングはすでに逸していた。  いまさら、持って帰る情報がそれだけでいいとは答えられない。 「何があるんだ、他に」  大輔は近づいてくる田辺を見据えた。 「俺がこわいわけじゃないんだろ」  ドアノブを握ったままの手を、わざとらしく覗き込まれる。 「ふざけるな、田辺」 「ふざけなかったことはないよ。あんたと俺の関係に、そんなビジネスライクなものが、あるとでも思ってたわけだ」  田辺が声をひそめた。 「かわいいんだな」  耳元でささやかれて、大輔は激昂した。思わず振り下ろした拳が払われる。田辺は遠慮なく間合いを詰めてきた。  飲み干したビールの缶が、軽い音を立てて転がり落ちる。 「正直、女には不自由してないんだ。でも飽きた」 「だから、なんだ。近いんだよ」  ドアノブを掴んだまま、田辺によけられた拳で胸を押し返す。 「カネもいらない」 「おまえと取引するつもりはない。今後、一切だ!」  大輔は間髪入れずに叫んだ。  田辺の発するアルコールの匂いが鼻をつく。ドアノブを回そうとした手を掴まれた。 「気持ちよかっただろ?」 「はぁッ? 気持ちいいわけないだろ。あんなデカいもんを突っ込んどいて。だいたい、おまえは出してよかっただろうけど、俺は萎えてたっつーの!」 「だっけ?」  田辺は上機嫌に笑いながら片足を進め、大輔の両足の間へ押し込む。 「何してんだ」  大輔は思いきり気色ばんだ。ぎりぎりと睨みつけたが、相手はどこ吹く風と言わんばかりに笑う。 「悪いようにはしないよ」 「もうすでに悪い状況だろ」 「情報は、欲しいんだろ?」 「……」  黙ったことが肯定になった。  欲しいに決まっている。喉から手が出るほど、欲しい。  田辺が持っているモノなら、役に立つに決まっている。今までだって、どストライクな情報ばかりをもらってきた。 「まさかと思うけど、おまえ」  おそるおそる顔を覗き込む。 「いやいや、それはない」  伊達眼鏡の奥で、形のいい目が細くなる。 「男が好きなわけじゃないよ。ただ、威勢がいいのは好きなんだ」 「……もしもガセを掴ませたら、わかってるだろうな」 「どうする?」 「おまえの子飼いを片っ端からしょっ引いてやる」 「ははっ、それは困るな。金が集まらなくなる」  田辺の手が、大輔のスーツのボタンをはずす。 「じょ、条件がある」 「条件……」  手を止めた田辺が、小首を傾げた。 「いいよ。でも、こっちにもあるよ」 「なんで、おまえが言うんだよ」 「それで対等だろ。あんたは抱かせる。俺は情報を渡す。あんたは条件を出す。俺も出す。で、いくつ条件があるわけ」 「あぁー。もういい。なんでもいい」  あきらめた大輔は、ドアノブから手を離した。 「痛いのは嫌いだ。だから、無理やり突っ込むな」 「そういうことね。いいよ。優しくする」 「気持ち悪い言い方すんな!」 「どういう言い方しろって言うんだよ。他には」 「気持ちよくさせろ」 「態度でかいな……。前もよかっただろ」 「ぜんっぜん」 「っていっても、初心者が『ところてん』するのは……」 「んなこと、誰も言ってないだろ!? 頼んでねぇよ!」 「じゃあ、舐めていかせてやるよ。他は」 「ない。好きにしろ。あっ!」 「何?」 「スカトロもなし」 「するかっ!」  田辺はげらげら笑い、両手を腰に当てた。 「どんな変態だと思ってんだよ。じゃあ、俺の方の条件も三つ出す」 「二つだろ」 「スカトロ入れたら、三つだ」 「……あぁ、そっか。いいよ。どうぞ。ってか、俺もビール飲むぞ」  田辺を押しのけて、冷蔵庫へ近づいた。  ビールを取り出して一気に飲み干し、ジャケットを脱いでベッドへ投げた。背中に向かって田辺が言う。

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