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第2話
朝から散々に聞いてきたハロウィンの決まり文句だというのに、目の前の生徒から発せられたそれは心を縛り付ける様に重く感じた。先ほどまで変な人だと小馬鹿にしていた気持ちが縮こまり、ふつふつと恐怖が湧いて出る。
「…な…に…?」
胸のあたりを押さえた圭の様子に生徒は愉しそうに目を細めると、理解が追い付いていない圭の頬をそろりと指で撫で、そのまま圭の顎に添えて持ち上げた。その指の冷たさに圭は身震いする。血が通っていないかと思うほどの低い体温。いや、低いどころではない。
ようやくそこで圭は目の前の存在が一介の生徒ではなく、本物の吸血鬼ではないかと疑い始めたのだった。
「教えてやるよ。『TREAT』はお菓子のことじゃない、悪魔への『もてなし』のことだ」
「…も、もてなし…?」
「そう、満足させて帰ってもらう」
「…帰ってくれる…?」
それは吸血鬼らしき人物に睨まれている圭にとって光明だった。
「…満足させるから…お願い、見逃して…」
圭の泣きっ面の懇願に対し、目の前の人物はまさに悪魔のように口端を持ち上げた。
「なら、満足させてもらおうか?」
くくっと喉で笑い、ふわりと靡かせたマントの中に圭を包み込んだ吸血鬼は圭の首筋に顔を埋めた。圭は自分から言った手前突き放すこともできず、ただ身を竦めて吸血鬼からの抱擁を受け入れざるを得なかった。ドッキリ企画か何かならいいのにと思いながら。
「ガキの割には、芳しいな」
「…血を、飲むの…?」
「今はいい。他の方法で満足させてくれるんだろ?」
「そ、そうだけど…なに、したらいい…?」
「大人しくしていればいい」
それで帰ってくれるなら、とコクリと圭が頷けば、体を横たえられる。
気付けばそこは家庭科室ではなかった。背の高い窓から見える闇夜には紅い月が上り、室内を照らしている。それに気付いた圭の顔からサッと血の気が引いた。
「…帰してくれるんだよね…?」
普段の強気はどこへやら、圭は恐怖にくしゃりと顔を歪ませた。泣きたいのはやまやまなのだが、泣いたかといって助けが来るわけでも、吸血鬼が帰ってくれるわけでもないのだ。
「おまえ次第だ」
そう言って覆いかぶさってくる吸血鬼に、圭はもう一度頷いた。ただ、解放されたい一心で。
いつの間にか看板がなくなっている胸元をそろりと撫でられ、何をされるのかと圭は身を固くした。吸血鬼が蝶ネクタイからワイシャツの合わせ目なぞるように爪を這わせれば、刃物で切ったかのようにすっぱりと裂け、圭の若干日焼けしたハリのある肌が露わになる。
「…ぁ…、ぁ…」
人ではない力を目の当たりにしてカタカタと震える圭のわななく唇に、吸血鬼は何の躊躇もなくそれを重ねた。触れる唇は冷たいというのに、口内を這う舌は灼けるように熱い。与えられる唾液を飲み込めば、甘美な熱が体中を駆け回り頭がのぼせる。吸血鬼は唇を圭の口端から顎と滑らせ、まるで宝物を愛でる様に圭の首元に口づけた。
そのたびにぞくぞくと背筋を這い上がってくる、得も言えぬ感覚。圭が体を震わせるのは恐怖からだけではなかった。
「…は……ぁ…」
晒された肌を手のひらで撫で上げられ、圭はピクリと体を跳ねさせる。氷のように冷たいというのに、触られた所がジンジンと熱を持つ。圭の口からは吐息のような喘ぎ声が幾度となく漏れた。
その手が存在を気にしたこともなかった胸の突起に触れ、「あ」と圭が短く発する。その突起の周りを円を描くように爪でなぞられれば、切られるのではないかという恐怖と共にじわりとした快感が起こり、圭は混乱するばかりだった。
「…あ、ぁ…やだ…なんで…」
「ガキかと思えば、一丁前だな」
「――あっ!」
吸血鬼が撫でたのは、短パンの前側にできた膨らみ。比較的ぴったりと作られているせいで、余計に目立ってしまう。圭は怖さも忘れ、恥ずかしさにカッと頬を染めた。
「変態!」
と叫び、圭は吸血鬼の手をペチリと音を立てて払った。直後、つい出てしまった言葉と起こしてしまった行動に気付いて、はっと口を押える。何かと体を触られることが多かった圭の条件反射のようなものだったが、吸血鬼相手にすべきではない。だが、吸血鬼は怒りもせずただ圭を見下ろした。
「面白いなぁ、おまえ」
「…や、やめ…っ」
シャツと同じようにしっぽの生えた短パンと中に穿いた下着さえもただの布切れにされ、その隙間から圭の確かに屹立したものが覗き見えた。冷えた空気が下半身に触れ、圭はブルリと体を震わせる。もう身につけているものは偽物の獣の耳のみ。圭を守るものは何もなくなってしまった。
「おまえの言う変態に触られて、勃たせてるおまえも十分変態だろ?」
「…ちがう…っ!」
「何が違う? 感じるんだろ?」
「そんな、こと…ぁ、ぁ…いや…」
露わにされた性器を扱き擦られ、同時に胸に舌を這わせられれば、圭はイヤイヤと言いながらも快感に体をしならせた。吸血鬼に与えられる恐怖と快感が入り混じり、圭の心も頭もパンク寸前だ。
「素直になればいい。ここには俺とおまえ以外誰もいないんだからな」
「で…でも…」
「気持ちいいだろ?」
「……ぅ、ん…っ……きもち…いい…」
「そう、気持ちよくなればいい」
「…ぁ…あ、…んぁ……あ…」
快感を認めてしまえば、恐怖は徐々に薄れていく。一種の現実逃避のようなものだった。身を委ねて、喘ぎ声をあげ始めた圭の唇にご褒美とばかりに落とされるキス。舌を吸われ、甘噛みされ、上あごを撫でられる。それはクチュリと水音を立てながら圭の思考を快感に染めた。その痺れるような口づけに圭の理性は徐々に欠けていく。自ら舌を絡ませつつ、吸血鬼の手のひらに性器を擦りつける様に腰を揺らし、快感を追い求めた。恐怖よりも快感が勝った瞬間だった。
吸血鬼は恍惚としている圭を喉で笑い、小ぶりな陰茎を扱きつつ健康な肌に舌を這わせた。吸血鬼が圭の立ち上がったソレを口の中に収めれば、圭は滑った熱いもので包まれる快感に堪らず声を上げる。
「…ぁ、ぁ…いぃ…っ…あ、ああ、や、…あああ…っ」
圭の屹立の先端から根本まで滑り降りた舌は、後ろのきつく閉じた蕾をこじ開けた。舌を捩じ入れられることさえ、未知の快感を呼び起こす。吸血鬼の長い舌に粘膜を撫でられ、体をビクビクと痙攣させる圭は、絶え間なく与えられる感覚にのけぞり、敷かれた布を強く掴んだ。
「…あっ、あぁ、やぁっ、でる…! でちゃうよぉっ!」
吸血鬼は目を細めると、ぐちゅぐちゅと激しく中を犯していた舌を引き抜いて圭の陰茎を咥える。射精を促すように吸い上げれば、圭はあっけなく吸血鬼の口内に欲を吐き出した。
吸血鬼は口の中の精液を喉を鳴らして飲み込み、にんまりと満足そうに笑ってから舌なめずりした。
「上等だな」
絶頂の余韻に体を痙攣させたままぼんやりと宙を眺める圭の唇を舐めあげ、口づければ、圭も無意識にそれに答える。吸血鬼は恐怖の対象ではなく、快感を与えてくれる相手。既に圭の中ではそう認識されていた。
銀糸を引きながら口が離されれば、吸血鬼はゆるりと笑みを零す。
「そろそろ『もてなし』の時間だ」
目を潤ませうっとりしている、まるで別人のような圭に吸血鬼はそう告げた。
「名は?」
「……名前…? 圭、深月圭…」
「圭、おまえをもらう」
自分の脚を持ち上げられるのをぼんやりと眺める圭。ふくらはぎに吸血鬼の舌が這わされれば、恍惚として甘い溜息を漏らした。
「あ…ぁ…? なに…?」
太腿を腹に押さえつけられるように曲げれられ、火傷するほどに熱い何かが臀部に押し当てられた。その何かが入ってくる。押し開かれるような感覚に呻き、圭は傍にあった吸血鬼の腕を必死で掴み、爪を立てながら仰け反った。
「あああ…っ…あっ! 痛い! いやぁ!」
「すぐ良くなる。初めてなら多少の痛みはつきものだろ」
吸血鬼は腰を引き足をばたつかせる圭を宥める様に優しく啄み口を塞いだ。初めこそくぐもった叫び声を上げていたものの、時を待たずにそれは鼻に抜けるような吐息へと変わる。吸血鬼が腰を押し付けるたびに、それはその空間に響いた。
「…は…ぁ、や、いたい…いた…い…やめて…」
「もう痛みはないだろ? おまえのここは濡れて、貪欲に呑み込んでるけどなぁ」
内壁を回すように抉られれば、圭は甲高い嬌声を上げた。圭の「やめて」という懇願は全て喘ぎ声に変わるだけで、吸血鬼に伝わることはなかったが。
内臓の中を掻き回され、擦られ、なぜ気持ちよくなるのか分からない。圭の一片の理性が吸血鬼に犯されているという事実を受け入れられずにいた。だが、確かに自分の中を吸血鬼の陰茎が行き来しているのだ。どうしてこんなことに、と圭はただ嘆いた。しかし、感じる場所を狙って穿たれれば、その度に圭は理性を少しづつ手放し、腰をくねらせるのだった。
「気持ちいいなぁ?」
「…あぁ、あ…いぃっ…いぃよぉ…」
「可愛い、圭」
「…ぅ、ん…ああ…っ…」
吸血鬼が一回り小さい圭の体を脚の上に抱える様にして座れば、圭は自ら腰を振り、自分のイイところに吸血鬼の熱を擦りつけた。その度に頭に付けられた耳が揺れる。ただ、猫のように甘い声で啼くため、それは狼のものには見えなかった。
「…ああ、ぁ…イィの…ぁ…ん、…これ…」
「好き?」
「ぁ、ぁ…ふかぃ、…ふかいの、すきっ…」
快感に蕩けた瞳を吸血鬼に向け、甘えるようにして吸血鬼の首に腕を回し、キスを強請る。もう圭は快感の虜になった淫乱な少年でしかなくなっていた。
その痴態に気を良くしてニヤリと笑った吸血鬼が圭の腰を持って下から突き上げる。圭は為す術もなく悲鳴を上げて絶頂を迎え、吸血鬼と自分の腹を汚した。ガクガクと痙攣させた体を吸血鬼に預ける。まるでそれが当たり前のように。
吸血鬼も荒い息のまましなだれかかる圭の髪を撫で、目を細めた。
「圭、イツキって呼んで?」
「…ぁ…イツ、キ…?」
「やっぱりいいな。おまえに決めた」
圭が何を?、と聞く隙も与えず唇を合わせると、急性に体位を変え圭を犯した。膝が胸に付くほどに押し付られ、最奥に叩きつけるような抽送が始まれば、圭は喉が枯れそうなほど激しく嬌声を上げるしかなかった。
「あぁっ、ああっ、はっ、イ、ツキっ、あっ、」
「圭っ…、俺の、圭…!」
「ああっ、ああ、いや、いやぁ、あああ、ぁ――――!」
中にドクリと放たれた熱。圭の視界も頭の中も真っ白に染まる。抱き締められたと思った瞬間、首筋にジリと焼印を押し付けられたような強烈な痛みが走る。それと同時に体中が感じたこともない快感に埋め尽くされ、圭は声にならない悲鳴を上げ、痙攣させながら体をしならせた。吸血鬼はそんな圭を強く抱きしめ、愛しい者を扱うようにそっと優しく圭の髪や頬を撫でた。
「俺の名を、忘れるなよ、圭」
荒い息の合間に途切れ途切れに呟かれる言葉。朦朧とする圭の目には先ほどまでの顔色の悪い吸血鬼ではなく、穏やかな空気を纏う血色のいい青年が映っていた。
「…イツ、キ…?」
ひんやりとした手が頬を撫でた。その気持ちよさに、圭はゆっくりと瞼を閉じる。圭の耳に顔を寄せた吸血鬼はそっと何かを囁いた。それをどこか遠くで聞きながら、圭は襲ってきた眠気にただ身を任せた。
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