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第3話
「――おい」
「おい、圭!」
激しく揺さぶられて、圭ははっと目を覚ました。目に入って来たのは若干怒り気味の佐伯と須藤の顔。
「え…?!」
起き上がれば、確かにそこは家庭科室だった。パシ、と頭を軽く叩かれて、そちらを見れば、須藤が眉を吊り上げている。
「え?、じゃねえよ! ストック取りに行ったまま戻ってこねぇから来てみれば、昼寝とはいい度胸だな!」
「昼寝…? 俺、夢見てたの…?」
「はぁ?」
「だって…吸血鬼が」
「圭ちゃん、どんだけ吸血鬼に憧れてるの…? ほら、もういいから、戻ろうな」
「う、うん」
あまりにもリアルすぎる夢だった。狐につままれたというのはこういう事だろうか。まだあの吸血鬼から与えられた快感に体が熱を持っているように感じていたが、年ごろで少しエッチな夢も見ることもあるため、圭は夢だったんだ、と自分を納得させた。
クラスに戻れば、皆がご立腹だった。圭がストックを持って帰ってこないせいで、せっかく来たお客さんを逃してしまったのだから当然だ。ストックを入れた袋を手渡して、圭は素直に「ごめん」と頭を下げた。
「過ぎたことはしかたないでしょ」
「今から巻き返そうぜ」
と、謝罪を受け入れてくれたクラスメイト達に圭は涙を滲ませつつ、もう一度「ごめん」と謝った。
圭はそれから文化祭の終了時間まで挽回するかのように、ホール仕事を張り切って務めた。2-Dのカフェは大盛況に終わり、興奮冷めやらぬままに後片付けを始めた。
「圭、先に着替えた方が良い」
「え? あ、うん」
「なんかおまえ、ヤバいわ」
「何が?」
「なんか漂ってる」
「はぁ…?」
「うん、俺もそう思う。圭ちゃん早く着替えた方が良いよ」
「何? 気になるんだけど!」
煮え切らない様子の友人二人に圭は詰め寄った。そこまで言われて、気にしない方がおかしい。佐伯と須藤は苦い顔を見合わせ、しょうがないという様に溜息を吐いた。
「あー…、さっき寝ぼけてたからかと思ってたけど、その…色気? 艶っぽさ? がとんでもなく出てる」
「いろけ?」
「一番遠いところにいたと思ってたのに、びっくりだわ。その短パンヤバい」
「はぁ!!? これ、衣装だろ? 着ろって言われただけだし!」
「わかってる。わかってるけど、すぐ履き替えた方が良い」
制服のズボンを渡されて、更衣室として用意されていたパーティションの奥に追いやられ、圭は納得のいかないまま仕方なく履き替えた。
圭はまた朝のようにぶーたれた顔をして、パーティションから顔を出した。衣装をどう処分するのかと、きょろきょろと視線を彷徨わせていると、女子が「自分の衣装は持って帰ってね」と圭にとどめを刺した。
「あれ? 深月君、これって、なに」
何かに気付いた女子の一人が、圭に近づき指差す。指をさされた場所は首筋。
「何かついてる?」
「えっと、なんか……吸血鬼に噛まれた跡、みたいな?」
「…きゅう、けつき…?」
圭は茫然とした。ゾワリと鳥肌が立って、血の気が引いていく。
「もしかしてずっとあったの?!」
「皆、気付かなかったの? 特殊メイクしてたのかと思ってたんだけど」
「気付かなかった~!」
「深月君エロい!」
と騒ぎ立てる女子たちが壁一枚隔てた向こうにいるような感覚になる。
そして、圭は思い出した。圭が意識を失う直前、あの吸血鬼が囁いた言葉を。
『大人になれば迎えに来る。逃げられると思うなよ』
カクンと膝から力が抜け、圭はその場に崩れ落ちた。
END
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