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第46話

「……お前」 ため息混じりに先生の呟きが落ちた。 先生が僕に反応してくれたことが、たったそれだけだけど嬉しくなってしまう。 背を向けたまま先生は―――多分短く笑った。 「お前さ。頭おかしいんじゃないのか?」 振り向き、先生は机にもたれるようにして立ち冷たい眼差しを僕に留めた。 「……え……?」 浮かぶ嘲笑に心臓が痛む。 「だってそうだろ? お前俺になにされてたのかわかってるのか?」 呆れたようなバカにしたような視線。 「お前は犯されてたんだぞ? 解放されて喜ぶはずだろ?」 確かにそうだ。 そう、なんだけど。 「……でも、でも……僕は……先生が」 犯されてたのに、おかしいのかもしれない。 でもだけど、先生の部屋で過ごす時間がだんだんと大切なものになっていった。 無理やりで始まったけど先生は優しかった……。 だから―――。 「僕は」 「そんなに」 僕は―――。 「ヨカッタ、のか?」 一段低くなった先生の声は一層冷たかった。 「……な……に?」 「セックスだよ。男の俺に突っ込まれてお前散々善がってたもんな? ヤリすぎて、ヤレなくなって身体が寂しいんだろ?」 「……ち……違いますッ!! 先生、僕は」 「何が違うんだよ。ヤリたいんだろ? 突っ込まれてイキまくりたいんだろ? そういや保健室では挿れてないもんな」 まさか学校でお前から誘われるなんて思わなかったな。 そう笑う先生に頭が真っ白になっていく。 違う、違う。 そうじゃない。 でも保健室で誘ったのは……確かに僕だ。 でも、違う。 「せ、先生、僕はっ……そうじゃなくて……っ、あの……っ」 「欲求不満なんだろ?」 「違いますっ。先生っ」 「しょーがねぇな。もうお前飽きたし他探そうと思ってたけど」 「……」 面倒臭そうに吐き出された言葉に胸が抉られる。 飽きた? 他? 誰? 僕以外を―――。 イヤだ。 次々に頭の中に沸き上がってくる想い。 「俺も散々楽しませてもらったしな―――最後にヤってやるよ」 ふらりと先生が机の側から離れ、僕の思考を断つように、冷ややかに告げた。 「自分でほぐして机に手をついてケツ突き出せ。そうしたら突っ込んでヤるよ」 「―――」 冗談、なんかじゃないことは……先生の目を見ればわかった。 呆然としてしまう僕の視界の中で、先生は「たしかアイツ持ってたな……」と言いながら鈴木先生の机の引き出しを開けて何かを探していた。 そして見つけたソレを先生の机の上に置いた。 「ハンドクリームでいいだろ。ローション代わりに使え。ほら、早くしろよ。授業終わるぞ?」 チューブに入ったハンドクリーム。 それを使って自分でほぐす。 出来ない。 出来るはずない。 息が苦しいのに呼吸するのも忘れそうになる。 出来ない。 出来るはずない―――けど。 「……は……い」 多分、しなかったら本当に先生との接点は切れてしまう。 もう二度と先生は僕に触れてくれない。 それだけは確信できて、ほんの少しの可能性でもいいから、と僕はガタガタと震えて今にも崩れそうになる足に力を込めて先生のそばに向かった。 先生は入れ替わるように机から離れ、鈴木先生の机のそばに立つ。 机の上のハンドクリーム。 ドラッグストアでよく見かけるようなどこにでもあるハンドクリーム。 目に見えて震えている手でそれを取った。 キャップを開こうとすれば、 「先に脱げよ」 と笑われる。 びくりと身体が強張ってハンドクリームが机の上に落ちてしまう。 確かに脱がなきゃ触れない……。 ドキドキとまるで心臓が耳のあたりにあるようにうるさい。 顔が熱く頭がぐらぐらするのを感じながら僕はズボンに手をかけた。 緊張のせいでベルトを外すのも脱ぐのも時間がかかった。 素肌が空気に触れ全身が竦む。 学校の中で自分がなにをしてるのか、しようとしてるのか。 考えただけで怖くて震える。 だけど……。 「早くシろ」 「……」 僕は今度こそハンドクリームを指先に出し、恐る恐る後へと持っていった。

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