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第45話

先生と話す時間を作ろう。 そう決めて、放課後がいいのか先生の家に直接言ったほうがいいのか迷っていたら、唐突にその日のうちにそのときはきた。 六時間目の授業が自習になったことがきっかけだった。 突然の自習にクラスメイトたちはざわざわと騒がしくなって、課題のプリントは配られたけど、みんな自由に席を立ったりしてる。 僕はプリントを見ながら―――先生のことを考えてた。 ちょうどいまの時間、先生は受け持ってる授業がないはずなんだ。 そんなことまでいつの間にか把握してしまってた自分に驚きながら、いまがチャンスなんじゃないかってプリントを握りしめる。 放課後は鈴木先生がいるはずだし、家まで行ったら―――……。 「ハルー」 里ちゃんが前の席にプリントを持ってやってきた。 僕は里ちゃんを見て―――迷うままに、口を開いていた。 「……保健室行ってくる」 「は? 具合悪いのか?」 「ちょ……っと……」 「確かに顔色悪いけど。ついていこーか?」 「大丈夫……」 顔色悪いのはきっと緊張してるからだとおもう。 それに嘘ついてることに罪悪感わくけど。 昼休み、里ちゃんたちに後押ししてもらったから、だから、がんばろうって……決めたんだ。 「……里ちゃん、行ってくるね」 「ああ。気をつけろよ」 どこに行くのか―――。 僕と里ちゃんの会話は本当は噛み合っていない。 けど、「うん」と頷いて僕は教室を抜け出すと、先生がいるはずの準備室へと向かったのだった。 *** 準備室の前に辿りついて、そこから動けない。 ノックをしなきゃいけないけど決心してここまで来たのに意気地なしな僕は怖くて立ちすくんでいた。 ぎゅ、と唇を噛んで拳を握りしめる。 深く息を吸い込んで、息を止める。 ―――このまま先生と会えなくなるのはいやだ。 そう、想って、ゆっくり息を吐き出して、手を動かした。 ドアをノックする音がやけに大きく響いて聞こえた。 ―――中から先生の返事がして僕はドアを開ける。 「……失礼します」 中へと足を踏み入れる僕の目にちょうど椅子に腰かけた先生が振り向くのが映った。 その顔が一瞬驚き、すぐに無表情になるのも。 後手にドアを閉め、緊張と不安で激しくなる動悸に息苦しさを感じながら震える足を動かした。 「……先生」 「―――なんだ。いまは授業中だろう」 冷たい声が胸に突き刺さる。 先生は「教室に戻れ」と僕に背を向けた。 プリントかなにか作ってるのか調べものでもしているのか。 先生がパソコンのキーを打つ音が静かな室内に響きだす。 僕は―――また一歩、一歩と足をゆっくりとすすめた。 「先生……」 手足も、声も震えていた。 生きてきた中でこんなに緊張してるのは初めてで、いまにもこの場に座り込んでしまいそうになる。 「先生……あの。あの、この前のことなんですけど」 振り向くことはなく作業を続けている先生。 僕の存在なんてないようなその態度にくじけそうになりながらも声を絞り出す。 「もういいって……どうしてなんです……か?」 尋ねた言葉はひどく直接的だった。 でも思考はまわらないし、どうやって訊けばいいかわからない。 そして一旦口火を切れば、またもうひとつと言葉が滑り落ちる。 「連絡……もうしないって、なんで……。僕……なにかしましたか……? 先生の気に障るようなこと」 先生は無言のままだけど、震えながらも僕は止めることができないまま震える声で訊き続ける。 「もし僕がなにかしたのなら、謝ります……っ。だから先生……あの、もう会わないなんて―――……」 不意に、大きな物音がした。 喋ることに夢中になっていた僕はハッとしていつの間にか俯いていた顔を上げた。 見れば椅子が動き、立ちあがった先生が映る。

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