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第44話

先生のことが……す――……。 里ちゃんの言葉に頭の中が沸騰したみたいになって何も考えられなくなる。 パニックになって視線を落ちつきなく動かして顔を伏せることしかできない。 「……ハル」 何も答えない僕に呆れたのか充くんがため息をついた。 顔を上げると充くんは苦笑していて、逆に里ちゃんが呆れたような顔をしている。 「……そんなに好きなのかよ」 充くんよりも大きくて深いため息を吐き出す里ちゃん。 「……え? や……あ、あの、僕は……せ……、えっと別に……あの」 先生ってまた言いそうになって慌てて口つぐんで、どう言えばいいのかわからなくて口をもごもご動かす。 「……そんなに好きならやっぱり一度ちゃんと話してさ、告白した方がいいと思うぜ?」 充くんの手が伸びてきてデコピンされた。 額を押さえながら戸惑う。 だって僕が先生に―――告白? 「そう……だな。ハルの女の趣味が悪そうってことはわかったけどさー……。んなに好きなら俺ももう一回ぶつかって話したほうがいいんじゃねーの」 真面目な顔で里ちゃんが僕を見つめる。 ふたりからの真っ直ぐな視線に持っていたパンが潰れそうになるくらい手に力を込めてしまった。 「……でも」 僕が先生になにを言えるんだろう? ずっとずっとあの日から何も言えず訊けず今日まで来てしまった。 最初は恐怖だけで、いまは先生から突き離されて傷ついて。 だけどずっとずっとある先生への疑問が胸に燻ぶってる。 ずっとずっと最初から今でも―――なんで、なんで―――僕を抱くのか。 それを訊きたかった。 だけどもういまさらなのかな。 いま訊いても遅いのかな。 そんな気がして、先生の冷たい目を思い出して、身体が竦んでしまう。 先生に会いに行ってもう一度話すなんてこと僕にでき――……。 「ハル!」 委縮する思考を一蹴するように里ちゃんの声が遮った。 「お前も男なんだし、たまにはガツンって頑張れ!」 「そうそ。当たって砕け……たらダメだけどさ。いつまでも考えてるより行動したほうがうまくいくってこともあるかもしれないんだし」 ふたりが身を乗り出して同時に僕の背中を叩いた。 その力強さに前のめりになってしまいながらも、ぎゅっときつく締めつけられるように軋んでいた頭の中の緊張が緩んだ気がした。 「その女惚れさせる勢いで行け!!」 「そうそう勢い勢い!」 里ちゃんと充くんが自分のことのように真剣な顔をしてくれているのが嬉しい。 先生のことを考えるとまた迷いそうだけど励ましてくれるふたりに僕は自然と頷いていた。 「……うん。一度話してみるよ」 立ち止まってうじうじ考えていてもどうにもならない。 怖いけど、でも、でも―――先生と会えなくなるのは……イヤだ。 その気持ちが浮かび上がってクリアになる。 「ありがとう。里ちゃん、充くん」 少しぎこちないかもしれないけど笑顔になれた。 「おう! 頑張ってこいよ!」 「うん」 もう一度里ちゃんに背を叩かれ、強く頷く。 ようやくふたりも笑顔になって昼食を再開したのだった。

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