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第43話

どうすればいい、なんて訊けない。 「ただ……」 訊けない。 でも――……。 ぎゅっと拳を握って緩く息を吐きだす。緊張と不安が過ったけど重い口をゆっくり開いた。 「あのね……別に付き合ってたわけでもなんでもないんだ。会話もそんなにしたことないし」 先生の部屋で会っていたときしていたのは勉強と先生に抱かれること。 会話はあったけどそれは日常的なものじゃない。 勉強を教わるときとあとは必要最低限のもの。 あの部屋で先生の日常を少し知ったけどそれは本当にほんの少しで、僕はなにも先生のことを知らない。 「でも……嫌われては……なかった……気がする」 なぜ先生が僕を犯したのか、抱き続けたのかわからない。 でもでも――僕のためにココアを用意してくれる先生は……"遥"って呼ぶ先生からは悪意は感じられなかった。 「けど……」 冷たく僕を見る先生の目がよみがえる。 思い出すだけで心臓が委縮して息が止まりそうな気さえする。 「……けど? ……なんかあったのか?」 言葉を途切れさせてしまった僕に充くんが控えめに訊いてきた。 「……わからない……けど……嫌われたみたいなんだ」 「なんで」 里ちゃんが眉間に皺寄せて不満そうに呟く。 「なんでだろう。……でも多分……僕が……せ……、気に触るようなことしたんだと思う」 保健室での出来事。 あのとき先生はどういう気持ちだったんだろう。 あのときもう先生は―――。 「なんだよ、その女! ハルに悪いところあるわけねーじゃん! その女が悪いんだろ!」 里ちゃんの怒ったような声にハッとして口をつぐむ。 普通に考えて女性が相手だって思うのが当然だっていまさら気づいて、本当のことを言えないことが心苦しかった。 「……いやでも……僕が気付かないうちになにかしたんだよ、きっと」 「ハルみたいないいヤツがなんかするわけねえし! 何組のヤツだよ!」 「里ちゃん落ちつけって」 「落ちつけるか! そんな急に態度かえるような女やめておけよ、ハル!」 「――」 ズキリと心臓が痛む。 「理由がなんなのかわかんないんだしさ。それにどんな相手にしろハルはその子のこと好きなんだろ?」 ため息をつきながら充くんが里ちゃんをたしなめて、僕に真剣な眼差しを向けた。 「急に態度を変えるような女のことが好きなのかよ」 不服そうに里ちゃんが吐き捨てて。 僕は言葉を失くして―――そして顔が一気に熱くなるのを感じた。

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