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第42話

先生の冷たい目が脳裏にこびりついて離れない。 突き離されて放課後準備室に行く勇気もなくてその日はそのまま家に帰った。 でもどうしても先生のことを考えてしまう。 僕は先生の気に障るようなことをしてしまったのか。 どうすればいいんだろうか。 わからないまま考えつづけて、ため息ばかりついていた。 そんな僕に、 「ハル、大丈夫か。お前」 って心配そうに声をかけてくれたのは充くんと里ちゃんだった。 食欲のない僕をお昼休み裏庭に連れてってくれた二人は奢りだって僕に売店で人気の総菜パンをくれた。 女子に人気のホイップ入りのメロンパンに、男子に人気の豚肉たっぷりのボリューム焼きそばパン。 僕はお弁当を持ってきてたけど「いいから食え」って里ちゃんにお弁当箱の上に乗せられた。 「なんか悩みあるならいえよ」 僕にくれたのと同じ焼きそばパンを口いっぱいに頬張りながら里ちゃんが言ってくる。 「そーだぜ、ハル。相談したら楽になるってこともあるんだからさ」 これもやるから、って紙パックのコーヒー牛乳を充くんが渡してきた。 「お前最近ほんっと顔色悪いし、ため息ばっかりだし。見てるこっちが胃が痛くなってくるんだぞ」 「そうそう。ハルはそりゃ普段から大人しいほうだけどさ、でももうずーっと大人しいっていうか暗いになっちゃってんぞ?」 里ちゃん、充くん、交互に言って僕の頭を軽く叩くようにして髪をぐちゃぐちゃにしてくる。 そのちょっと乱暴な仕草に心配してくれてるって実感がわいて、ごめんね、って少しだけ笑い返した。 「……ありがとう。でもなんでもないよ」 先生とのことを言えるわけない。 言えるはずない。 「俺たちには話せないのか?」 「なんでもないってことないだろ」 充くんが少し寂しそうに眉を寄せて、里ちゃんが心配そうに僕を見つめる。 「……」 「いじめ……とかじゃないよな」 里ちゃんが恐る恐る訊いてきた。 まさか、と首を振る僕と同時に、 「違うだろ。どう考えても恋!だよな!」 って充くんが言ってきた。 「え、そうなの?」 「俺もだいぶ前はいじめでも受けてるんじゃないかって思ってたけどさ」 「ああ。春休み前とか様子おかしかったもんな」 「でも学校じゃなにもなかったしな」 「そうそう。一応見張ってたけどなにも変わりないし」 「で、いまは物憂げなため息だろ? だからさ、ハルは初めての恋ってやつに翻弄されてたんだよ、ずっと!」 「……」 春休み前っていうと僕が先生に犯された頃。 そんな前から心配かけてたんだって驚くのと同時に申し訳なく思う。 だけど―――恋って。 充くんの口から出てきた言葉に僕はメロンパンを喉に詰まらせかけた。 慌ててコーヒー牛乳を飲む僕の両隣で里ちゃんと充くんはトークを白熱させていく。 「初恋!? そうだったのか! どうりでなんつーのあれ、物憂げっていうの? そんなため息だって思ってたわ、俺!」 「だろ? 夜も眠れてないみたいだし食欲もない、そして頻繁なため息に遠くを眺める目。恋の症状だよ」 「なるほど、そうか。そうだったのか」 「里ちゃんはなーまだ彼女出来たことないどうてーくんだから分からないだろうけど」 「あ? 充、お前なに言ってんだ。俺は彼女いたぞ、一年のとき!」 「一週間で別れたろ」 「うっせぇ!」 「それに手も握れずに終わった癖に」 「じゃあお前はど、ど、どーてーじゃねーのかよ」 「黙秘」 「あ? ふざけんな!」 「……」 話しがどんどん脱線していってる気もするけど二人の会話を聞いていると面白くて少しだけ心が楽になった。 食欲がなかったけど二人のお陰でだいぶ食べることができた。 ひとしきり言い合っていた二人は疲れたのかお腹空いたのかため息をついて食べることに集中しだす。 そして口いっぱいに頬張っていた里ちゃんが食べながらもごもごと話しかけてきた。 「でもふぁ、はるー」 「……食べてから喋れよ」 充くんのツッコミを受けて里ちゃんはコーヒー牛乳で口の中のものを飲みこんでしまうと真剣な顔で僕を見つめた。 「もしまじで恋の悩みーとかならさ、お前も男なんだしうじうじ悩んでないで相手に告白しちまえば?」 「里ちゃん、もしかしたらもう付き合ってるかもしれねーじゃん」 「え、遥付き合ってんの?」 ふたりの視線に一瞬呆けて慌てて強く首を横に振る。 先生と僕が付き合ってる――なんてない。ありえない。 「付き合ってないよ」 「だよなー」 里ちゃんはほっとしたように笑って、充くんはからかうように笑った。 「なんかその口調だと付き合ってないけど、わりといい線いってるーって感じだな」 「え!?」 「ち、ちがうよ! 本当に……なにもない……んだ。別に……」 先生とセックスしてた。 でも先生からもういいって言われた。 ふたりにそんなこと言えない。

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