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第60話
鈴木の雰囲気が変わった。
そのことに遥も気づいたのだろう。
しきりにあげていた抵抗の声は途切れ怯えが増す。
「いい加減、イヤイヤもうぜーな。面倒くせぇし」
普段の鈴木からは考えられないほどの無表情さと冷ややかさ。
固まる遥に鈴木は手を伸ばし、ズボンに手をかけた。
目を見開く遥が弾かれたようにまた抵抗を始めるが、鈴木はその身体を抑え込み下着もろとも脱がせてしまう。
「っ……」
空気にさらされた下肢。
鈴木が脚を開き身体を割り込ませた。
「い、や……だ」
身体の震えをそのままあらわすかのような声。
「ローションで濡らして突っ込めばいーだけだよなぁ」
すでに準備してたローションを手にしたかと思うと鈴木は遥かの下肢へ遠慮なくぶっかけた。
「ッ、ヤ、やめっ、先生っ」
脚を抱え上げようとした鈴木に遥が今までより激しく抵抗しだす。
「いやだっ、やだっ、先生っ、先生っ」
もがき、手足が鈴木へとあたり顔を顰めた鈴木が遥の身体を反転させ、うつぶせにさせると背中で両手を押さえつけた。
するりと腰に触れてくる手にそれでも遥は抵抗を続ける。
本当にーーー。
灰皿にタバコを揉み消し、紫煙を吐き切る。
「いれりゃ、そのうちヨクなってくるんだろ?」
「やだっ、やだっ、先生っ、僕は、葛城先生が、っ」
本当に黙って犯されればよかったのに。
本当にバカだよ。
お前は。
そして、
「……せんせ」
「あ? なんだよ、かつら、ッ」
俺もバカだ。
無理だ、とわかってるのに。
反射的に慌てたように腕で防ごうとした鈴木に構わず、腹へと蹴りをぶち込んだ。
「ッ、ぃてぇっ」
バランスを崩した鈴木がソファから転げ落ちる。
そこにもう一発いれようと足を上げたら、ギョッとしたように鈴木が避けるがすかさずもう片方の足で腹に蹴りをいれた。
「ちょ、っ、おいっ、葛城! ストップ! なにすんだよっ!」
床に転がった鈴木の腹に足をのせたまま、怒鳴りつけてくる鈴木を見下ろす。
「……うっせえんだよ、下手くそが」
「はぁ!? 下手、って、お前俺のテク見たことあんのか! 俺のテクはな―――ッげ」
もう一度足を上げ踏みつけようとしたら鈴木が勢いよく飛び起きて後退し、同時に俺の腰にまわる細い腕。
「せ、んせい……っ」
しがみつくその手が震えているのが伝わってくる。
きつく俺の行動を制するかのような、それでいて助けを求めるかのような。
遥の体温を背中に感じ鈴木を冷たく見据えた。
「出ていけ」
突然俺に蹴られた鈴木は憤った表情で睨みかえしてくる。
「あ? ふざけんなよ、これからだろ」
「出ていけ。こいつに、触るな」
「……はぁ? なんだよ、なに、お前らってまさか付き合ってんの?」
まさか、と驚いたように目を見開く鈴木に、違う、とだけ否定する。
俺の否定にかびくりと遥の身体が震えた。
「いいから出ていけ。もう終わりだ」
鈴木は再び眉を寄せ睨みあげてくる。
黙ってそれを受け、見下ろす。
だが思ったよりもすぐに舌打ちすると鈴木は立ちあがった。
「クソッ!」
苛立たしげに吐き捨て鈴木が歩き出す。それに反応するように遥が一層強く俺にしがみついた。
鈴木は髪をかきむしるようにしながら俺の肩へとわざとぶつかってきた。
一度足を止めて横目に睨んでくる。
至近距離で絡む視線。
「葛城……テメェ、覚えてろよ」
冷ややかに睨みかえせば、
「―――巨乳専門の俺に貧乳触らせた代償は高いからな」
俺の耳元で唸るように低く囁いた。
「……あ?」
「くっそぼけ。遅いんだよクソ」
あーくっそ痛ぇし、ぶつくさ言いながら通り過ぎる鈴木を振り返って見るがヤツは振り返ることなくそのまま部屋を出て行く。
そして玄関ドアの閉まる音が響いてきた。
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