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第59話
何が起こってるのかわからない。
その顔はあのときと同じだ。
状況を認識できずパニックに陥ってるのが手に取るようにわかる。
ソファの上で鈴木にのしかかられて、首筋に顔をうめられている遥。
その目が大きく見開かれ人形のような動きで動き俺を捉えた。
呆然としている遥にあのときのように教えてやればいいのか。
『いまから犯されるから』
あのときは俺で、いまは鈴木に。
だが俺の口から吐き出されるのは紫煙だけ。
俺を見ていた遥の服の裾から鈴木が手を差し込んでいく。
肌を撫でられたのか。
一気に遥の目に怯えが走り我に返ったように暴れ出した。
「ッ、やめてくださいっ、鈴木先生っ」
もがき、鈴木の身体を押しのけようとしながら叫ぶ。
華奢な遥が鈴木から逃げられるわけがないけど。
案の定鈴木は遥の抵抗をものともせず片手で遥の両手を押さえこむともう片手でシャツをめくりあげる。
「うわ、ほっそー。遥ちゃん腰細いね。それに色白だし肌もすべすべ。その辺の女より可愛いし、まじでうまそうだな」
「いやだっ、鈴木先生、やめてくださいっ、やだぁっ」
鈴木ってマジで変態くせぇっていうか親父くさいな。
AVマニアだし、セックスも影響されてたりすんのか?
「乳首かわいー」
いちいちうっせぇな。
にやにやと笑いながら遥の胸に顔を寄せその突起へと鈴木は唇を寄せている。
びくり、と遥の身体が跳ね、その顔がどれほど白くなるんだろうというくらいに蒼白になっていく。
「いや、やだっ、やだやだっ」
力では敵わないとわかるだろうに抵抗を続ける遥とそれを無視し身体を舐めていく鈴木。
いやだいやだ、と繰り返し暴れている遥の抵抗はあのときよりも強い。
あのときは性に対して認識が少なかった分、はじめての行為にパニックになって思考を奪われ抵抗する気力を削がれてたのか。
いまは行為のひとつひとつがなにを意味するか、全部わかるだろう。
行為によって生じる快感も、全部。
でも、いいじゃないか。
あのときと違って、いまは大好きだった鈴木が相手なんだから。
お前が好きになったのは鈴木だった。
たぶん、出会ったのは俺の方が先だったけれど。
―――俺がはじめて遥に会ったのは遥がまだ中学生のときだ。
ここへは模試で来ていたあのとき。
いまでも華奢だがあの頃はまだ小柄で幼い風貌をしていた。
『……僕、ここに入学できたら先生が担任だったらいいな』
ぽつりと呟いた遥と再会したのは一年後数学の準備室。
少し伸びた身長とようやく高校に慣れた様子の遥の目に映っていたのは鈴木だけだった。
「や、やだ、先生っ」
悲鳴混じりの遥の声が響く。
歪ませたのが元に戻るだけ。
俺が遥を犯さなければ遥はずっと鈴木を好きだっただろう。
あのとき俺じゃなければ、あのとき鈴木にいまのように押し倒されていたら、喜んだだろ?
「やだ、やめっ、せんせっ、先生……っ、助けてっ」
いつの間にか涙を溢れさせていた遥が泣きじゃくりながら俺を見ていた。
「いやだっ、やだぁっ、先生っ、先生っ」
必死で俺へと手を伸ばし助けを求めてくる。
なんで俺に助けを求めるのか。
俺もお前を犯したのに。
―――全部、ただの、お前の勘違いだよ、遥。
「やだやだやだっ、先生っ、理哉せんせっ」
ぼろぼろと涙が落ちていく様を眺める。
そんな俺を遥が縋るように見ている。
絡んでいるようで絡んでいない視線。
「せんせい、お願いっ、先生っ」
ぼろぼろと涙が落ちていく様が。
「―――……っせぇな」
は、と我に返る。
遥にのしかかっていた鈴木が今までとは違う低い声で心底うざったそうに吐き捨て遥を冷たい目で見下ろした。
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