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第62話
好きだ、と言う遥の気持ちを俺は信じきれない。
手に入るならなんだっていい、そう思ってたのに。
***
遥に初めて会ったのは二年前。
俺はまだ新任で、二年生を受け持っていた。
ちょうど遥と出会ったとき―――あの頃は柄にもなく仕事で気落ちしていた時だった。
別にそのとき一目惚れしたとかじゃない。
まだ中学生だった遥の純粋さに癒されはしたけれど。
『先生、また数学教えてください』
模試のあと、ひとり階段のところに座り込んでいた遥に声をかけたのは単純に帰宅を促すためだった。
ひっそりとうずくまっていた遥は問題用紙を必死に見ていて、訊けば一問だけ時間が来て途中で断念したのがあってそれが気になったのだという。
家に帰ってゆっくり確認すればいいのに、そう思いながらも唸るようにして考えている姿が微笑ましくて俺はつい隣に座って教えてやった。
すぐに問題は解け、遥は俺に礼を言い、
『僕この学校に入学できたら先生に教わりたいです』
と笑顔を向けてきた。
邪気のない笑顔に、じゃあ受験頑張れよ待ってるな、と俺も笑い返し見送った。
それから翌年、遥はこの学校へ入学した。
俺はまた二年生の受け持ちで一年生の遥とは接点がなく、ただ入学していることだけ入学式にその姿を見かけて知っていた。
たった一度少し話しただけの俺のことを覚えてるとは限らないから俺から声をかけることはしなかった。
そしてやってきた再会は準備室で、遥の目は鈴木だけを見ていた。
別に好きだったわけじゃない。
『こんにちは』
鈴木と同じ準備室を使う俺に遥が挨拶して、それだけだ。
同性でしかも教師を好きになっている遥に気づいて―――同性でもいいのかと少し複雑な気分になった。
『……鈴木先生、あのっ、ここなんですけど』
放課後少女のように顔を赤らめて鈴木に質問をしにくる姿は健気で、報われないだろうに、と複雑な気分になった。
『鈴木先生』
そう呼ぶときの緊張して上擦った声を聞くたびに、やはり複雑な気分に陥る。
『……あの鈴木先生は』
俺しかいなかったときの静かな落胆を見るのがいやで目を逸らした。
だが―――目を逸らしたところで、8つも下の遥の存在が……ひっかかっていたのは本当は最初からだったのかもしれない。
***
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