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相知る温度(10)(side 凪桜)

真誠さんは、何か呟きながら仕事部屋へ行った。なるべく感情を抑えたつもりだったけど、困ったような悲しいような感じで目を伏せていたから、きっと僕の表情は冷たかったのだと思う。 タブレットは小さな音で自動再生して次々と動画を映し出している。僕の履歴からのおすすめの動画は本当に脈略のない多種多様で、自分の一貫性のなさみたいなものが真誠さんを困らせているんじゃないかと思えてきた。 だけど、やりたいことを好きにやるという生き方をしてきたから、今更変えられる気もしない。今の僕を受け入れてくれるつもりがあるのか、いや、それ以前にどのくらいの好意を持ってくれてるのかさえわからない。 だって、……キスしてきたもんなぁ……。 部屋の中をぐるりと眺めて、真誠さんについて知ってることや聞きたいこと、二人で体験したことを思い出しながら寝転んだ。沢山知ってる。いや、そうでもない。 手紙に書いてくれたことと会ってる時に話してくれたこと、僕が感じたこと。そんなのはまだほんの一部だ。 何か声に出したい気分を抑えるために枕に顔を埋めると新しい枕カバーの匂いの奥に真誠さんの匂いを感じてきつく抱きしめた。 気がつくとすっかり寝てしまったみたいで、狭いベッドの隅ギリギリに真誠さんが眠ってた。起こさないよう、そっと体を動かすと封筒が置いてあった。 真誠さんらしい、丁寧に封筒にいれて宛名も差出人も書いてある。たぶん僕はいまニヤけてる、手紙を開ける時はきっといつもそうだと思う。あわてるな。音を立てないよう静かに原稿用紙を取り出して読む。 愛しています?! 重荷? 楽しんで行きたい? なんでそのまま言ってくれなかったの。こんなにシンプルなことなのに。 いや、真誠さんはこんなに仲良くなって距離が近付いても口には出せないんだ。僕はそこも既に知っている。部屋に遊びに来て調子に乗って、自分が感情的になって、真誠さんの気持ちを勝手に都合よく受け取ってただけ。 小さくなって眠る真誠さんの顔を見て 「いつか僕にはなんでも言えるようになって」 と呟くと真誠さんは目を開けた。 「起きてたの?」 「起きてたっていうか、夢見てたら凪桜さんの声がきこえた」 「手紙、ありがとう」 「うん」 手紙の返事は手紙じゃなくてもいいよね。 「僕は真誠さんの重荷になっても一緒にいてくれたら嬉しいと思うし、面白くない日でもそれなりに過ごしていきたい。これから一生懸命、愛します」

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