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プロローグ

◆ ◆ ◆ 「―――れは……つけ……たのかっ……」 「い、いえ……まだ……み……つけ……られない……」 ある男が墓場で息を潜めつつ、敵の監視役である男達の会話を一字一句聞き漏らすまいとしていた。 この任務さえ終えれば、一生楽に暮らしていける程の大金がタンマリと手に入るのだ。 『……この任務を終わらせた暁には―――大金とヒーローになる資格を君に与えよう』 あのクソッタレな組織のイカれた男は―――こう言った。だが、冗談じゃない。自分は大金さえ手に入ればいい。他の奴らを救うヒーローになんか絶対にならない、と思ってはみたものの大金は欲しい。 だから、男はこの場所に来た―――。 クソッタレなイカれ上司の男___イヴが言うには、ここにはかつて組織の命に従うために命を捧げて市民を守った男(名前なんか知らない)が捕らわれてこの墓場に閉じ込められているらしい。 墓場といえど___ここは敵の監視下にある場所だ。先程から男の目に飛び込んでくる墓石の中には―――かつて市民を救うために奮闘したものの命を散らせていったヒーロー達の魂が捕らわれているに違いない。 (まあ、そんなことは俺には関係ねえ……っ……さっさと任務を果たして大金を……っ……) 監視役の男達に気付かれないように慎重に歩みを進めていく。あのクソッタレなイカれ上司は―――任務に重要な墓は一目見れば分かるとか言っていたが、暗闇で挙げ句の果てに周りの墓は似たり寄ったりなものばっかりで全く分からない。 あのクソッタレなイカれ上司にハメられた―――と思った男だったが、ふいにある墓の前で動きを止める。 その墓石には―――二つの赤い目が浮かびあがっていた。あのクソッタレなイカれ上司の言葉は本当だったのか、と思い直すとすぐに行動に移し、男はその墓を敵に気付かれないように気配りしながらも掘り起こしていく。 『……キミには墓を掘り起こした後で―――その中から、あるものを回収してもらいたい。それは……っ……』 その後のクソッタレなイカれ上司の言葉を思い出すと思わず吐き気が込み上げてきたのだが、男は一生楽に暮らしていける程の大金のためだけに我慢しつつ墓を掘り起こしていく。 だが、 【Bee~……Bee~……テキ、テキ……ハッケン】 辺りを敵の【群衆駆除型兵器カンシバチ】に取り囲まれていると気付いた時には、時既に遅く、腕や足―――果ては体全体にその鋭い銀針が突き刺さってくる。 悲鳴などあげる暇なく―――大金目当てだけで任務に挑んだ男は絶命した。 辺りには男の血飛沫が飛び散り、それは―――男が掘り起こしかけていた墓場にも例外なく飛び散っていたのだ。 ◆ ◆ ◆ ―――むくり、と唐突に墓場に閉じ込められていた筈の男カインは起き上がる。先程まで、カインは敵の監視役にある墓場で永遠の眠りについていた筈だ。 しかし、生き返った―――。 自分の身に起きた事がすぐには理解できず、ぼんやりして辺りを見渡していたカインだったが―――ふと足元に無慈悲に転がっている大金目当てだけでこの場に来た男を目にすると何となくだが状況が理解できた。 ―――この男が命をくれたおかげで、自分は生き返ったのだ。 ―――この男は自分の恩人だ。 カインは何とといえぬ気分になり、大金のためだけに任務を果たそうとした男の体を抱えると―――そのまま敵の監視下における施設から脱出することを決意するのだった。

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