2 / 6

出会い①

◇ ◇ ◇ 『アダム……いつも、ありがとう―――キミがいなければボクの作家としての命はとっくに失われていた。キミはボクの恩人だ……アダム』 ふと、ギシギシとスプリングが軋むベッドの中でアダムは昔から付き合いのある友人―――ジーニアスから数時間前にかけられた言葉を頭の中で思い返した。 今は録に動かす事の出来ない両腕で自分の体を抱き締めようとしてくれている友人を思い出すと―――ツキン、と心が痛む。純粋に文字を愛して作家を続けていきたいと願ったジーニアスの想いに反して―――何という愚かな行為を自分はしてしまっているのだろうか、と罪悪感が硝子細工のように脆いアダムの心を掻き乱すのだ。 事故のせいで両腕を失ったジーニアスの代わりを務め、彼の作品を代筆し【Ghostwriter】として影で活躍している自分を脅して体を求めてくるような最低なクソヤロウに組み敷かれているなんて―――。 しかも、ひっきりなしに襲いかかってくる快楽に抗えず―――だらしなく半開きになった口から喘ぎ声を漏らしているなんて―――。 (そんなことを知ったら―――ジーニアスは確実に俺を軽蔑する……特に俺なんかよりもよっぽど文字を愛している彼に……知られたら……っ……) そんな事を悶々と悩んでいると―――急にアダムを組み強いて乱暴に腰を打ち付けていたクソヤロウの動きがピタリと止まった。 「―――ふん、きみが余計な事を考えている内に何発も出してしまったせいでコンドームがなくなってしまったよ。すぐそこのスーパーで買ってくるから待っていなさい……逃げるんじゃないぞ―――Ghostwriterくん?」 「……っ…………!?」 穏やかで紳士的な笑みを浮かべながら淡々とクソ野郎がアダムの耳元で囁きかける。しかし、アダムは分かっていた。表向きはいい男として振る舞っているが、本性はドス黒く蛇のように自分を逃すまいと演技している偽りの姿だと―――。 チュッ…………と頬に口付けしてきた男の背中を睨み付けながら―――アダムはフッ……と何の気なしにカーテンが開けられたままの窓に目線を向けた。 あのクソ野郎は行為の時はいつもカーテンを閉めない。昼間だろうが、夜だろうが―――晴れで有ろうが雨であろうが、それは関係ないのだ。なんでも、カーテンが開いていると行為をするに至って燃えるらしく―――特に明るければ明るい程に男の目はそれこそ炎のようにギラギラと燃えながらアダムをベッドへと捕らえて組み敷くのだった。 だから、アダムはヤツがコンドームを買いに行くと行って部屋から出て行った事に驚愕してしまった。 (いつもなら……こんなことは有り得ないのに……って……逃げるなら今がチャンスだ……っ……これ以上―――あのヘンタイのクソッタレ野郎に利用されてたまるか……って……なんだ、あれ……) 今まで裸だったが、ヘンタイ野郎から逃げるために急いで服を着直して窓から逃げようと身を乗り出したアダムの目に飛び込んできたのは、墨を塗りたくったような暗闇と―――それに反して少し遠くの方で煌々と光り輝く青白い物体だった。

ともだちにシェアしよう!